劇場公開日 2025年9月26日

「「やまと」の絶対的な強さに説得力が感じられない」沈黙の艦隊 北極海大海戦 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 「やまと」の絶対的な強さに説得力が感じられない

2025年9月27日
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「政治と軍事を分離して世界規模の超国家軍隊を創設する」という海江田の構想は、明らかに「核抑止」の理論に基づいていて、更に言えば、「核の脅しによって世界平和を維持する」というものだろう。
こうした考え方は、「沈黙の艦隊」の原作漫画の連載が始まった冷戦時代だったら通用したかもしれないが、現代の世界情勢に適用できるかどうかは疑わしい。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻のような国家間の戦争は抑止できた可能性はあるものの、「9.11」のようなテロ事件や、ハマスのテロに端を発するイスラエルによるガザ攻撃のような事態を、抑止できたとはとても思えない。
そんなことを考えながら、この映画を観ていると、国連の会議に出席するためにニューヨークへと向かう「やまと」の行動や、「やまと」支持への賛否を問う衆議院選挙が、どうしても絵空事に感じられてしまって、今一つ、物語の中に入り込むことができなかった。
更には、その選挙の結果も、いくら「やまと」が無敵だからといって、たった1隻の潜水艦に国家の命運を託すという民意が示されたことには現実味が感じられないし、ましてや、全世界の武装放棄という荒唐無稽な構想を標榜する政党が、多くの票を集められるとも思えない。そもそも、「やまと」に保険をかけるという政策にしても、配当金を得るよりも、「やまと」が撃沈された場合の保険金を得た方が、余程「得」をするのではないだろうか?
本作の最大の見どころとなっている海戦シーンについても、潜水艦と魚雷による、同じような「絵柄」が繰り返し出てくるだけなので、何だか単調に感じられたし、パッシブソナーしか使っていないのに、狭い氷の間をすり抜けていったり、ホーミング機能を有しているはずの魚雷を、ことごとくギリギリでかわしたりと、トンデモな描写が多過ぎて、興醒めしてしまった。
こうした海戦の場面では、やはり、「優れた作戦や戦術によって勝てた」ということを、きちんと描いてもらいたかったと思えてならない。
その点、北極海での海戦の米海軍側の原潜に、「2隻で1隻のように見せかける」という作戦があったのは面白かったのだが、その一方で、ニューヨーク沖での海戦で海江田が採用した、「こちらが攻撃しなかったら、相手も、きっと攻撃を控えるはず」という方針は、とても作戦とは言えない代物で、単なる希望的観測と言っても過言ではないだろう。そんな状況で浮上してしまうのは、間が抜けているとしか思えないし、そこで、もし、ミサイルや艦砲で攻撃されていたら、いくら「やまと」でも、ひとたまりもなかっただろう。
冒頭で述べた、海江田の「超国家軍隊の創設」構想は、「やまと」の絶対的な強さが前提になっているだけに、それに対して説得力を与えることができなかったのは、この映画の致命的な欠陥だと言えるのではないだろうか?

tomato
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