「島の人々の「敵」」木の上の軍隊 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
島の人々の「敵」
元が舞台劇らしい作りの映画。
戦闘シーンを除いて場面ごとの登場人物が少なく、少々作り物っぽい印象的なエピソードで手短に訴えたい事を入れ込んでくる。
また、終戦を知らず二年もの間木の上で潜伏していた二人の日本兵という、若干滑稽にも見える特殊な逸話も、舞台劇にはうってつけのよう。
伊江島だけではない沖縄戦で浮き彫りになるのが、現地の人に対する日本軍の暴虐非道ぶり。この映画も例外ではない。
「沖縄戦」は日本の敗戦が必至となったため、本土決戦を1日でも遅らせるための「本土防衛のための捨て石」作戦であり、帝国陸海軍は「玉砕精神」で戦争指導と作戦遂行をし、この方針を軍のみならず一般住民にまで貫徹した。
セイジュンの母は、「家と土地を(日本軍に)取られ、父も戻らず気が触れた」。
島で現地徴用された新兵も住民も労働に駆り出され奴隷のような扱い。
軍の防空壕に入れるのは兵隊だけで住民は締め出し、住民を守らないが投降は禁じる。未遂でも促すだけでも容赦なし、破れば殺す。追い込まれた民間人の集団自決が多発する阿鼻叫喚。
ささいなことで暴言を吐かれ殴られ蹴られ、本土から来た帝國軍人は島の人々を蔑んでおり、差別意識むき出しだ。山下が言う、「戦うのは、家族や大事な人々、国民をを守るため」その理屈に説得力はあるが、島の人々は「守るべき人々」の中に入っていないようだ。
島の人々にとって日本軍は、味方と言う名の敵に他ならない。
沖縄は、米軍と日本軍の、二つの敵に蹂躙されたのだ。
山下が米軍のゴミ捨て場で遭遇した住民の老人に、「昔よりよっぽど良い」と吐き捨てられるのは当然。大きな敵が一つ無くなったんだから。それにショックを受けていた山下が、現代の自分には不思議に見える。自分たちが住民にしてきたことを「正義」と信じて疑わなかったというのか。
沖縄戦で亡くなった人は20万人あまり、そのうち12万人が住民だったと言われる。
沖縄の人口が59万人ほどなので、1/4が犠牲になった。そして兵士より、民間人の犠牲者がはるかに多い。
日本軍の権化のような少尉・山下と、沖縄を体現したような現地徴用の新兵・安慶名セイジュン、セイジュンが山下を、少尉ではなく上官、と呼ぶのは、山下の階級が分からないからだろう。
基本的な新兵教育すらできていない日本軍の窮状がそれだけでも分かる。
血も涙もない冷酷な上官山下だが、人としてふたりきりになるとそうでもない。
頑固で骨の髄まで帝国軍人だが意外と気さくで自ら働き新兵だけをこき使ったりしない。
ふたりは、飢餓と恐怖に耐え、助け合い知恵を絞って生き延びる。
時には、兵隊やくざの有田上等兵と大宮のような可笑しいやりとりがあったりもするが、生き延びることへの山下の目的とセイジュンのそれとは明らかに違いがある。
帝国軍人として教育されてきた山下は当然のように人間性よりも皇国の精神を優先するので、たびたび衝突が起きる。
日本の敗戦を知り、出ていこうとするセイジュンに銃を突きつける山下は予想通りで、こんな場面は当時数多くあったに違いない。そして、上官に阻止され射殺された兵隊たちもおそらくいる。
せっかく戦争を生き延びたのにこんな命の奪われ方はやり切れない。
人間性も合理性も無視の狂気じみた軍国思想と、それを徹底させた教育のエグさが、恐ろしい。
この島は変わってしまった、子供の頃、友達の靴を見つけた思い出の丘は、自分が人を殺したおぞましい場所になってしまった。もう元には戻らない。
セイジュンの慟哭には、沖縄だけでなく、戦争を経験した人の多くが共感するのではないか。
破壊と殺戮が終わっても、戦争が人々にもたらした傷と変容は取り返しがつかない。
時が経っても取り戻せないものが確実にある。
戦争がもたらしたものを、振り返って改めて心に刻んでおくように、戦後80年経った今だからこそ、観るべき映画だと思います。
堤真一、山田裕貴のふたりがとても良い。
堤真一は骨の髄からの帝国軍人を身近なおじさんのように自然に演じており、戦争が終わった事実を、自分の中で消化して受け入れていくところも素晴らしい。沖に向かっていきそうなセイジュンに必死で追いついて、「そろそろ帰ろう」というちょっと微笑んだその表情が秀逸でした。
セイジュンの山田裕貴は、なんだかのんきな島の子だが生きる術に長けていて、素朴で皇国の教育に染まっていない分、感覚的に人として生き物として正しい判断をする新兵を好演。ふたりとも飢える状況とともに痩せていって、リアリティがありました。
とても良い配役だったと思います。
戦争が終わってからも殺されてしまった人はたくさんいたんでしょうね。
守ってくれるべきものが守ってくれない。負けて前よりましになるなんて戦っている間はわからないですよね。 山田裕貴の笑った顔が戦メリのラストのたけしと重なりました。
もう二度と同じところには帰れない、今だからこそ多くの人に観てほしい作品だと思います。
確かに 正義の戦争 より 不正義の平和 の方がいいですね【某作家より引用】何もない平凡こそありがたい
ほぼほぼ 本流でない【陸大はおろか 陸士も幼年学校すら歩んでいない】関係ない特務士官的な堤真一さんの上官 が セイジュンさんといいコントラストでした。上官も口は悪いですが根は悪い人じゃない普通の人ですね。
いいねコメントありがとうございました。なお 隠した食料を島民に奪われて手紙を書く くだりは実話とのこと【有料パンフ🈶情報です。】😊
セイジュンが等身大と申しましょうか、現代に生きる我々に近い価値観だと思いました。ゆえに一言ひとことが刺さりました。戦争映画を観て、平凡な日々のありがたみを感じる、すごく大事だと思います。
コメントありがとうございます。
山田和利選手の息子さんでしたっけ?亀梨くんと混同していた様です。
戦隊の時はイケメン!って感じでしたが、最近目と目の幅が気になるメンズ。
本作の井上ひさしといえば『ひょっこりひょうたん島』キムタクもCMで歌ってたよね、と言ったら、“NOBU“さんが『自分はキムタクのふたまわり年下なんで、そんなン知らん』と言われてしまった。彼、相当若いらしい?
共感ありがとうございます!
かばこさんの深い洞察に感銘を受けました。上皇陛下と同い年の伯父が、学徒動員で過酷な労働を強いられていたことを話していましたが、首都に近い横浜も遠くの沖縄も、実は国民の苦悩は変わらずに実在していて、多くの命が失われたのは間違いのない事実です。
拳銃を持って日本を取り囲んだ強盗団のような連合国に、包丁一本で立ち向かうことに昭和天皇は難色を示されていましたが、軍部の暴走を止められなかったのはさぞかし悔しかったでしょうね。
共感ありがとうございます。
教育って恐ろしいの一言ですね。どういう人間を作り出そうか最初から型にはめてるんでしょうね。一人十殺・・・。
セイジュンが故郷を昔の様に感じられなくなったのは本当に悲劇ですね。