「帰らぬ「日常」」木の上の軍隊 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
帰らぬ「日常」
個人的な趣味から言うと、まさに典型的「3K」である「戦争映画」は苦手なジャンル。特に邦画だと、いろんな「怨念」が渦巻いて陰湿に描かれる上に、その時代の延長線上には自分がいるという当事者感も相まって積極的に観て来なかったが、本作はタイトルとレビューの高さに惹かれて、「鬼滅…」の観客でごった返す劇場へやってきた。
実際、この作品もかなりお客さんが入っていたし、他にも今は良い作品が並んでいるので、これで映画業界にまたお客さんが戻ってくるといいな。
で、「木の上の軍隊」。
いわゆる「戦争映画」というジャンル映画の割には、凄惨なシーンや直接的な暴力映像は最小限に抑えられていて、令和に戦争を描くとこういうことになるのかな、と思ったりもする。
沖縄戦が始まり、現地の島で徴兵された主人公が、前線でアメリカ軍に追い詰められ、逃げる内に期せずして部隊の長官とこの少年兵の二人だけが生き残り、木の上に避難して始まる生活。
終戦を知らぬまま、援軍を待って長い時を過ごした彼らの皮肉な運命と、家族や知人、友人、そして町の姿だけでなく、その記憶さえも失ってしまうことへの嘆き。
奪われた「日常」。
それは戦争が終わっても戻ることはない。
「失ったものが何だったのか」すら忘れている自分に驚き、また変化に順応してしまう自分や周りの人々を見ながら、忘れてはいけないものも存在することを痛感する。
でも、いつかそれも忘れてしまうのか。
そんな切なさが溢れていた。
ただ、一本の映画作品としては、木の上に登ってからそれほど劇的な出来事もないので、取って付けた様に差し込まれるエピソードにどんどん飽きてくる。「死んだのか?」「いや、死んでない」、「ついに死んだ?」「いや、生きてます」みたいなことが繰り返される感じ。
堤真一の迫力は言うまでもなく、山田裕貴の沖縄弁もリアルだったし悲しい演技も良かった。脇を固める沖縄の俳優さんたちの存在感も心に刺さる。
一年に一回くらいは自分にとっての平和ってヤツを考えてみる機会になるのは良いことだと思うし、なんだかんだ言っても、それなりに不自由の少ない生活を送っている自分たちを見つけることにもなる。
内容はソフトなので、若い方にも是非観てもらいたい一本。
