「今だからこそ観るべき映画の一つ」木の上の軍隊 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
今だからこそ観るべき映画の一つ
戦後80年の今だからこそ、観るべき映画の一つだと思う。
これまでも、戦場の爆撃シーンは何度も観てきたはずなのに、個人的にトラウマになるレベルに近い衝撃を受けた。これが、第二次世界大戦後80年たった今も、世界の様々な場所で繰り返されている現実に身震いする。
<ここからは内容に触れた感想>
・「この国を、守り抜く。」なんてフレーズが、まだ10年にもならないくらい前に盛んに発信された時期があった。「守る」と言われると何となく無条件で正しいことのように思ってしまうのはなぜなんだろう。堤真一演じる山下少尉の言葉に少し心を動かされる自分を感じながら考え込んでしまった。
「負けると敵に蹂躙される。だから、自分の家族を守るために、自分の命を賭すのだ」と言われると、酷い目に遭う家族をイメージして、思わず「そうさせてはいけない」と反射的に考えて同意してしまいそうになる。でも、作中で山西惇演じる宮城が吐露する通り、負けた方が「昔よりよっぽどいい」ことだって現実にはある。
本作では、さりげなくしか示されなかったが、自分たちを守ってくれると思っていた軍隊が「我々と共に敵を殺し国を守れ」と暴力的に命じてきて、更に「ここは軍人用の壕だから民間人は入るな」と追い出すのだから、島民にとっては、日本軍が大量に流入して食糧不足になった時から、既に地獄が始まっていたのだろう。
そして、そもそも島民たちは投降を禁じられていた。だから、6月23日の牛島司令官の自決後にもひめゆり学徒隊のような集団自決が続き、終戦後の8月18日にも「島民に投降を呼びかけた」として日本軍に射殺されてしまう者も出たというおぞましい史実につながる。
「負けること」が地獄なのではない。「負けることはいけないこと」と刷り込まれてしまうことの方がよっぽど地獄なのだが、そのことは「守る」という言葉にうまく隠されて、飲み込まされてしまう気がする。
そして、山下少尉のような、勇ましい従順な思い込みは、陰謀論とも親和性が高いのだなぁと改めて思う。「投降を呼びかけるワナ」なんて思う自意識の過剰さは、「我々なんて、庭に入り込んだ2匹の虫」と冷静に状況を分析する安慶名の言葉だけでは目覚めない。つくづく「一見耳触りのよい言葉にハマらないように注意」というのが、自戒をこめて考えた結論。
・「初めて勝った」というシーンがとにかく切なすぎる。
それでこれは映画の出来とは全く無関係なのだが、山田裕貴にバットで打たせたのは、もともとの舞台にもあったシーンなのか、山田裕貴だからこそなのか。妻に言われて、自分もちょっと気になった。
・時折、死んだはずの与那嶺などが出てくるところが、とても演劇的な印象を受けた。原案となった舞台もどこかで観られるのなら観てみたいと思った。
・朝ドラ「あんぱん」が描く、「覆らない正義」は、やっぱり「飢えている人には食事を与えること」なのだなと、今作でも思った。
・沖縄戦で命を落とされた方々のご冥福を、改めてお祈りします。
共感ありがとうございました。私は、最初から主役二人のキャスティングに違和感をもってしまったためネガティブだったのですが、映画自体はやはり観るべきものだと思います。
共感&コメントありがとうございます。
二人の心中を現した劇伴だったのかもしれませんが、隠れての行動含め哀れですね。
あと前半の教官への怒りをチャアチル?辺りにぶつけさせるのも愚かしいと思いました。
>今だからこそ見るべき映画の一つ
同感です。
ひどい内容を美しい言葉で言い換えるのが常、一見耳障りのいい言葉には「必ず毒が隠されている」と言っても過言ではなさそう。良い内容なら響きを気にしなくて良いはずですから。