「シンシンの舞台に」シンシン SING SING 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
シンシンの舞台に
NYに実在するシンシン刑務所。警備レベルは最厳重で、収監されている囚人たちも重罪者ばかり。
そこで行われている更正プログラム。その一つに、演劇。
長らく収監されているジョン・ウィットフィールド、通称“ディヴァイン・G”は、このプログラムの中心人物。
同グループの仲間と日々稽古などに打ち込む彼は、無実で投獄された身であった…。
穏やかな性格と台本も書く賢さで仲間から慕われる一方で、自分の境遇に苦悩も抱え…。コールマン・ドミンゴが今の絶好調ぶりも分かる巧演。
新作舞台の為に新たな“キャスト”を探す。スカウトしたのは最も恐れられている囚人。クラレンス・マクリン、通称“ディヴァイン・アイ”。
彼や他の囚人たちも知らない役者ばかり…と思ったら、それもその筈。囚人たちのほとんどは、実際に収監されプログラムに取り組んでいた元受刑者たち。
ディヴァイン・アイは本人。ドミンゴが演じたディヴァイン・Gも別役で出演。皆が驚くほどのナチュラルな演技。これもプログラムの賜物だろう。
実際の刑務所を舞台に、実際の元受刑者たちによる、実際の演劇プログラム。
稽古シーンなどはドキュメンタリーのよう。劇映画を見ているのか、ドキュメンタリーを見ているのか、不思議な錯覚。
勿論、ドラマ仕立ての劇映画である。無実で…とか囚人たちの交流など、同じく刑務所を舞台にしたあの名作を彷彿。
それと同様に、サスペンス仕立てで刑務所から脱獄…なんて展開になったら何だか趣旨が違くて嫌だなぁと思っていたので、地味だが終始プログラムと囚人たちのドラマに一貫していたのは好感。
苦悩や不条理は募る。
特に親しかった隣の房の囚人。ついさっきまで話していたと思ったら…。
自殺や刑務所内のいざこざで殺されるならまだ分かるが、あまりにも突然の病死…。
仮釈放申請の聴聞会。演劇プログラムが如何に自分の為になったか、真摯に訴えたのだが…、審査役の態度はシビアで素っ気ない。
結果は通知されなくても分かる。どうせ…。
さすがに自暴自棄になり、最終リハーサルで大声で我慢の限界をぶちまけてしまう。さらには、プログラムを下らないとまで…。
受刑者たちが刑に服すのは当然。許されぬ罪を犯した。
だが、それが間違いの時だってある。その不条理…。
俺たちに自由は無い。
…いや、たった一つある。それまで束縛されたりしない。
自由意思。演劇をやろう!
当初新作舞台は、ディヴァイン・Gが構想していたいつもながらのシリアス劇の予定だったが、ディヴァイン・アイの笑えるのをやりたいという意見と多数決で喜劇に変更。
皆の意見やアイデアを募ったその内容は、ハムレットやらリア王やらグラディエーターやら海賊やらロビン・フッドやらガンマンやら『エルム街の悪夢』のフレディまで登場する、奇想天外なタイムトラベル・コメディ。
この劇、見てみたかった気もする。残念ながらそのシーンは丸々カット…。
EDには実際の演劇の映像。
この演劇のみならず、様々な更正プログラムを聞いた事がある。もの作りや犬の飼育など。
釈放された受刑者たちがまた刑務所に戻ってくる率は深刻なほど高い。が、何かプログラムに携わった者は率が低いとの検証結果もある。
何か、生きがいを。
それによって見出だし、本当の自由へ希望を繋ぐ事も出来る…。
