「開かれた刑務所」シンシン SING SING 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
開かれた刑務所
主役のディヴァインGを演じたゴールドマン・ドミンゴは
役所広司とそっくりの演技巧者であり、
人間味溢れるリアリティある存在感。
彼は凸凹した長方形の顔形含めて役所広司でした。
2人に特に共通するのはペーソス溢れる哲学者の姿。
シンシン/SINGSING刑務所の演劇を使った刑務所での
【更正プログラム=RTA】って、
これは刑務所受刑者の再犯率を調べる上での
モデルケース・・・だったのでは?と思います。
どこの刑務所でもこのPTAを実施予算はない筈だし、
トランプ政権のような政府機関も封鎖してしまうような政権では
まず一番にコストカットされること間違いないでしょう。
でもシンシン刑務所では行われたこのプログラムの
その効果は抜群のようですね。
事実このRTA之を受講した刑務所受刑者の再犯率は3%以下と、
信じられない数字です。
犯罪者の多くは演劇の恩恵を受けるような環境に生まれてない
思われます。
しかし演じることは心を開放すること。
そして怒りや悲しみ、喜びを表現することで、
感情のコントロールを会得し、そして他者を思い遣る気持ちが
芽生え始める。
他者を愛することは、心の余裕がなくては生まれない気がします。
ディヴァインGの勧めで仮釈放の申請をしたハムレット役のクラレンス。
クラレンスの心は捻くれ、ささくれ立っていました。
人間不信も大きい。
しかし申請は認められて出所が叶います。
演じたのは実際に刑務所に服役して演劇更正プログラムを受けた本人の
クラレンス・マクリンが演じているのは驚きでした。
無実で何十年も服役しているディヴァン・Gの仮釈放の申請は
却下され続けて、ディヴァインGの心は折れてしまいます。
しかし演劇仲間たちが、彼の復帰を誰よりも望んでいました。
ハドソン川の岸辺にあるシンシン刑務所。
窓から見える景色や、自由時間に歩く散策路など、
いかにもゆとりのある開かれた刑務所って感じですね。
多くのプリズンものの映画とは大違い。
プリズンものではない名作の「ジーシャンクの空」や
「パピオン」での極悪刑務所長は全くでてきませんし、
よく見かけるお決まりの新入り之受刑者への通過儀礼とも言える
性加害も見受けられません。
窓ひとつない暗闇の懲罰房や、水圧をマックスに上げた水攻めも
皆無です。
遂に出所のかなったディヴァインGを出迎えるクラレンス。
どんな開かれた刑務所であっても、自由と希望の新生活は
彼が夢見た夢そのものである筈です。
