「刑務所であることを忘れ、一人ひとりの尊厳に目がいく」シンシン SING SING Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
刑務所であることを忘れ、一人ひとりの尊厳に目がいく
芸術を通じて更生を図るプログラムのRTA (Rehabilitation Through the Arts) は1996年にシンシン刑務所で始まった実在するプログラムで、RTAのサイトによれば、このプログラムを経た者たちの再犯率は、プログラムを受けていない者たちよりずっと低いそうだ。
彼らは演じることを通じで自分の内面と向き合い、他人の立場に身を置くことを通じて自分では気づかなかった新たな一面を発見する。また、決して一人では成り立たない演劇で互いに信頼し合うことを学び、協同して作り上げる喜びを感じ、人としての尊厳を取り戻していく。
鑑賞中、彼らの人間としての悩みや役者・芸術家としてのもがきを見ているうちに、彼らが収監されていることなどつい忘れてしまい、途中に挿入される減刑聴聞などの場面で「そうだ、ここは刑務所の中だった」と思い出さされる。
刑務所だから、犯罪者だから、といった色眼鏡を外して一人ひとりと向き合うことで、それぞれの人の素晴らしさが見えてくるのではないか。逆に言えば、我々は様々なレッテルを人々に貼って偏見で見ることが多すぎるのではないか?
初めから犯罪者として生まれてくる人間などいない。個人の責任がまず問われるのは当然のこととして、一方で、貧困や差別、偏見など社会的・経済的環境、あるいは家庭内での虐待などによって、いつの間にか犯罪手を染めざるを得なくなった人々も少なからずいるであろう。
だからこそ、個人の尊厳を踏み躙ることなく尊重することが大切なのだ。そして、一人ひとりが尊重されることが学べるのであれば、矯正プログラムだけではなく、学校などにおける通常の教育プログラムにおいても演劇はもっと取り入れられても良いのかも知れない。