劇場公開日 2025年4月11日

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「「地味そうだ」という印象だけで避けてしまうのは勿体ない一本」シンシン SING SING TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 「地味そうだ」という印象だけで避けてしまうのは勿体ない一本

2025年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

第97回アカデミー賞にて3部門でノミネートされた本作。公開初日のTOHOシネマズシャンテ、初回9:50の回に4階のSCREEN1に向かうエレベーターは団体が一緒に乗り込んできて盛況を予想させますが、これは初日・初回にあるあるの「関係者ご一考」による様子伺いのための来場。実際の客入りはあまり芳しいとは言えず、地味な作品ではありますがちょっと残念な感じです。
シンシン刑務所に収監されているディバイン・G(コールマン・ドミンゴ)。RTA(Rehabilitation Through the Arts/芸術を通じたリハビリテーション)と呼ばれる更生プログラムに参加し、収監者仲間たちと共に舞台演劇に取り組んでいます。中心的なメンバーとして「出役(でやく)」だけに留まらず、劇作家として自ら戯曲も書き、また演出についても積極的に発言してグループにおけるエース的な存在です。そして、気心の知れた「相方」マイク・マイク(ショーン・サン・ホセ)とは常に行動を共にし、また独房も「お隣さん」であることから夜も就寝まで演劇や劇団について語り合う仲。新しい作品についての計画を仲間たちと相談する中、刑務所内で少々悪目立ちしていたディヴァイン・アイ(クラレンス・マクリン)を新メンバーとしてスカウトすることになりますが、その存在がディバイン・Gの考えるプランを微妙に狂わせていきます。それでも舞台の成功のため、感情的になって空回りするディヴァイン・アイに常に目を掛け、そして声をかけ続けるディバイン・G。そして、ようやくまとまりが見えてきた「これから」のタイミングで、ディバイン・Gに思いがけない試練、そして厳しい現実が待ち受けます。心が乱れ、また優位に立つための努力も報われない一方で、またしても自分をあっさり踏み越えるディヴァイン・アイ。そんな、自分がやってきたことを全否定されるような展開に、完全に我を失って遂には孤立してしまうのですが...
実話を基にした原案を脚色されたストーリーは、シンプル且つ古典的で解りやすく、それでいてしっかりとドラマチック。だからこそ役者たちの演技がダイレクトに胸に沁みるのですが、驚くべきは劇中劇を演じている役者の多くは「本人役」で出演をする元受刑者が多いこと。当然「本物感」バリバリだからこそ、彼らから発せられる実感のこもった深い台詞の数々を聞けば、なるほどこの更生プログラムの意義を深く理解することができます。
そして勿論、この作品に更なる深みを与える存在、主人公ジョン・“ディヴァイン・G”・ウィットフィールド役・コールマン・ドミンゴの真に迫った演技は素晴らしいの一言。ままならない人生に翻弄されつつも、仲間たちとの演劇へ真剣に取り組んで諦めない心を持ち続けるディヴァイン・G。すっかり老け込んだ様子のラストシーンには、悲哀を越えて清々しさすら感じ、彼の人生を想って涙腺が刺激されます。
今週もまた作品選択に迷う充実なラインナップですが、今作は「地味そうだ」という印象だけで避けてしまうのは勿体ない一本。お薦めです。

TWDera
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