「和風コズミック白石バディホラー」近畿地方のある場所について てんぞーさんの映画レビュー(感想・評価)
和風コズミック白石バディホラー
近畿地方のある場所について
失踪した編集長が残した資料を基にオカルト記事を作成するホラーライター瀬野(菅野美穂)と編集小沢(赤楚衛二)のバディムービー。
未解決事件や怪現象、それにまつわる素人のホームビデオや過去映像のショートムービーをメインに、モンタージュ的に事件の全貌、怪異の正体に輪郭を与えていく構成が秀逸。
特に序盤から中盤にかけて、一見すれば脈絡の無い映像を散りばめていく導入パートは怖さの盛り上げがとても上手い。
怪異の一端が姿を現す林間学校のムービーは、謎の声⇒はしゃぐ学生⇒一転パニックと、日常に染み出てくる怪異を見せる流れがとても王道。
映像的な恐怖がいっそう際立っていたニコ生配信のムービーは、天井から伸びる異常な量の縄がインパクト抜群。もう引き返そう!とコメントを打ちたくなるが、続く流れで背後にヤバイ物が映り込み、これは手遅れだという事を示す引きが見事。ノリでやって来て本物の恐怖に遭遇する凸劇ヒトバシラ(九十九黄助)の憐れな演技が光る本作の白眉。
中盤を過ぎると、無造作だった映像や資料たちが線でつながれていき、物語が徐々に輪郭を帯びてくる。ましら様の伝承、昔話、謎の黒い石、近畿地方のある場所。
謎を1つ明らかにするたびに怪異が近づいてくるようで、瀬野の取材中にましら様の存在を察知した霊能力者は脱兎のごとく逃げ出し、小沢は取り憑かれて失踪しかけるなど、主人公たちにも異常現象が起き始める。この辺りが物語的には恐怖のピークで、観客側もこんな取材やめて猫特集に差し替えようという気持ちが高まってくる。
そんな感じで、感情の恐怖曲線も良い具合に高まりながら物語は終盤へ。
失踪した編集長宅に突撃していくあたりから白石監督らしさが熱を帯び始め、まだ生きていた編集長がやっぱり死んだ事をきっかけに完全にジャンルが「ホラー」から「白石晃士」に切り替わる。
全ての鍵は黒い石にある、という結論を導き出し、ましら様のお社に向かう二人。
今まで編集小沢のブレーキ役として機能していた瀬野がここに来て一転、覚醒。現れた女性の怪異を「邪魔だオラァ!」と車でぶっ飛ばして爆走し、「石はどこだオラァ!」と雄叫びを上げて巨大なバールのようなものでお社をぶっ壊すなど、瀬野無双が止まらない。
ラストは驚きのどんでん返しがありつつ、白石触手を纏ってましら様もしっかり登場。いつもよりCGの出来が良いぞ!
この終盤パートはあまりにも白石監督劇場すぎるので好みが分かれる部分だと思う。私は好き。
作品としては全体的にずっと面白くて怖くて大変良かった。
和風ホラーのテイストから始まり、怪異の根源である黒い石が実は隕石なのでは?という視点を織り交ぜて最終的にはコズミックホラーの様相に味わいが変化していく構成がとてもお洒落だと思う。
・わざわざニコ生配信時のコメントを動画にレンダリングしている気の利く編集長
・近畿地方に何かある!という事を血で示してくれている親切な編集長
・一回通りすぎて…巻き戻して停止!という編集で「コイツが元凶!」と訴える編集長
・手順があまりに面倒なましらさま遊び。こんなもん子供の間で流行らんやろ
・小動物を飼って怪異の呪いの身代わりにする展開は嫌悪感が強くてとても良い
・ハムスター1匹で1年持つなら、ハツカネズミをつがいで飼えば事足りるのでは
・目の前で編集長が死んだのに謎解きを続行するタフな二人。まず警察に通報しよ?
・石に吸い込まれてもあきらめない小沢の根性
