「逃げずに生き残った人たちの物語」雪風 YUKIKAZE MS金太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
逃げずに生き残った人たちの物語
予想していたよりもはるかに良い映画でした。いわゆる「反戦映画」でもなく、戦艦大和級の「超大作」でもないが、少人数の「駆逐艦乗り」たちだけが持っていた家庭的な雰囲気がよく出ていた。人物の顔のアップが多かったのも、微妙な表情が感じられる距離感の演出だったと思える。駆逐艦の戦闘は、トム=ハンクス主演の『グレイハウンド』がスピード感があって秀逸だったが、この映画は制作費はあまりなかったのだろうなという思いは横へ置いておこう。
帝国海軍は基本的に志願兵制であった。「普通の生活」が良いにこしたことはないが、あえて国のために厳しい道を選び、軍艦という機械を動かす技術を身に着け、死地に赴く覚悟をもった同志的結束の人間集団が海軍だ。人命救助シーンに視点が行きがちであるが、「雪風」は駆逐艦らしく、身をもって戦艦・空母の盾となり、レイテでは敵空母に雷撃戦を仕掛けるために先頭を切って突進するなど、「見敵必戦」のイギリス海軍を模範に武士道精神を加えた「海軍魂」が描かれていた。戦争に反対ではあったが、戦うときは敢然と戦う艦長と乗組員。沖縄特攻作戦を無意味と批判するも「死んでくれということか、それなら分かった」と覚悟を決める伊藤整一長官。レイテでの栗田長官の反転も、輸送船ではなくハルゼー機動部隊と刺し違えたいとの思いだったと信じたい。
昭和18年、18歳であった私の父は、「特幹」(陸軍特別幹部候補生)に志願し、航空兵(通信)になり偵察機に乗るはずだったが、乗る飛行機がなく終戦を迎えた。戦後は警察官、退職後は民生委員として社会に尽くし、旭日章を受けた。この物語は、そういう自らに義務を課し黙々と職務を全うし、たまたま生き残った人たちの物語といえる。彼らの思いは、雪風では唯一戦死した「先任伍長」が娘に残した髪留めを身に着け、災害救助に向かう女性隊員に受け継がれる。製作者の意図は最後のシーンに込められる。これを「蛇足」とコメントする人たちには関係のない、「普通の生活」が良いにこしたことはないが、あえて厳しい道を選ぶ人間を描いた映画だ。戦艦大和を描く映画の主人公は大和だが、この映画の雪風に船としての存在感が感じられなかったのはそのせいなのだろう。
あえて一つだけ考証的なことを言えば、水葬のシーン、あれはない。世界共通の水葬規定では、重しをつけて沈める。軍艦旗をかぶせた棺が波にぷかぷか浮くことはありえない。第一、軍艦旗を海に捨てるなんて!制作中、これはおかしいと言う人はいなかったのでしょうか。
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