「幸運艦雪風と駆逐艦乗員の実話を踏まえた物語」雪風 YUKIKAZE Moiさんの映画レビュー(感想・評価)
幸運艦雪風と駆逐艦乗員の実話を踏まえた物語
感想
小学生高学年の頃、「壮烈!水雷戦隊」という本を読んだ。その時初めて駆逐艦雪風の逸話としての歴戦記録と歴代艦長(飛田健二郎、菅間良吉、寺内正道)の話、当時の帝国海軍慣例と比較しても極めて個性的であった水雷戦隊の慣例と従事する駆逐艦乗りの気質、さらに我が国が独自に開発した水雷戦技術と水雷兵器性能-特に魚雷(九三式、九五式酸素魚雷)性能は世界最高水準でありその酸素流用技術は現代に至ってもトップクラスである事など徐に知るに至る。それから半世紀以上が経過し今年の夏、邦画のラインナップに「雪風」の題名を発見し観賞したいと思い本日観賞する事が出来た。
配役
素晴らしく個性的な俳優さんばかり出演している。
考証が足りない部分あるが安定した演技。
寺澤一利:竹野内豊
早瀬幸平:玉木宏
有馬岩男:藤本隆宏
佐々木伊織:山内圭哉
中川義人:三浦誠巳
井上壮太:奥平大兼
伊藤整一:中井貴一
古庄俊之:石丸幹二
寺澤志津:田中麗奈
早瀬サチ:當眞あみ
演出・脚本
監督は本作が初監督作品である山田敏久。外野の意見が多くなる戦記作品をよく纏めて創り上げていると感じる。脚本は助監督も兼任している「ホワイトアウト」「花戦さ」脚本の長谷川康夫、飯田健三郎が担当。
作品の質について
本編の企画意図として戦争という異常事態時における正確な分析と人間的な正論をどのような状況下においても発信する勇気を持つ事がいつかは世界を変えて行くことなると信じる気持ちの大切さと幸運艦雪風(実は幸運を招いたのも乗員の日頃からの鍛錬と努力、巡り合う過酷な状況下での操船技術と艦長判断、時の運なども重なっていて一重に雪風総員の努力の結果である事は間違いない。)の逸話を掛け合わせ、非人道的行為である戦争はいつの時代にも悲劇を産み人を幸せにはしないと結論付けて反戦をテーマとしており、出来としては興味深く感じる。
草鹿龍之介参謀長の無碍な命令に対して伊藤整一艦隊司令が返戻した逸話など一億総玉砕思想が蔓延したあの時代に軍部の中でも誰も止められないその発想に敢えて異を唱え建前の裏にある本音や正論を自身の責任の範疇で変更し部下に命じて日本の行く末を想いながら亡くなっていく姿が描かれており、真当な神経をもった軍人が当時も実は大多数であり、国是による参謀本部の作戦指令書のみがひとり歩きしていた事がよく判る話にもなっていた。
映画としての構成は大体のところ上手く纏まっていたが、当時の日本国民の文化的心理や感情、帝国海軍の慣例、軍制の詳細な考証(兵の髪型や海軍礼式など)を徹底して隅々まで反映させると更に作品が引き締まり良くなったのではないかと感じる。
また本編の最後のエピソード展開は編集と脚本の見直しをすると完成度がさらに上がると感じた。(以下箇条書に記す。①〜②)
①
雪風の乗組員が現代の我々に向けてエールを送るシーンは個人的にはとても良い発想だと感じたが、挿入するシーンの順番がどうしても違うのではと感じる。個人的には順番的にあのシーンは最後の最後で波の音とエンドロールが出た後が良かったのではないかと感じる。
②
寺澤の娘(有村架純)が自衛官になっているエピソードとドローンの江田島兵学校の全景も脚本的にも編集的にも説明が不足していると感じる。本編に残すのならカットを増やすなど説明と編集を加えた方が良い。
もう少し時間をかけて制作すると熟成し味が出たと
思われる作品。
⭐️3.5
moIさん、コメントと共感、ありがとうございます
>正当な神経をもった軍人が当時も実は大多数であり、国是による参謀本部の戦争指令書のみがひとり歩きしていた事がよく判る話にもなっていた。
まさにその通りと思います。過去の戦記映画では、伊藤長官や有賀艦長は強い軍人として描かれることが多かったように思いますが、今作の中井貴一さんは、心の中に人としての迷いや弱さを秘めていたように感じられました。実際に作戦実施中に駆逐艦を反転帰港させるなど、世が世なら軍法会議ものの決断をされたのですが、おかげで今の私があると思うと伊藤長官や有賀艦長には感謝しかありません。戦争エンタメ映画としては多くの方がご指摘しているように物足りない点もありますが、寺澤艦長や早瀬先任を含め、軍人のリアルを描いた秀作と思います。
共感ありがとうございます!
全般的には良い作品だったと思うのですが、エンドロールの説明で8割がフィクションのような誤解をさせるのではないかと心配になりました。
映画の内容はもちろん重要ですが、予告、フライヤー、エンドロール、SNSの宣伝なども作品の完成度を上げるのには大事なものだと実感しました。
共感ありがとうございます。
旧来の戦争映画のような強い主張、作品の匂いを出さない様、出さない様配慮した様に見えました。唯一手を振るシーンに微かな匂いを感じましたが、やはりその部分が皆引っかかる様ですね。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。