「これは脚本(ほん)が良くない」雪風 YUKIKAZE Whiterockさんの映画レビュー(感想・評価)
これは脚本(ほん)が良くない
楽しみにしていたのですが、お盆で映画館に行く暇もなく、日が経つにつれ上映が小さい箱になり。どうしても一番大きな箱で観たかったので、レイトショーに掛かるのを待って出かけて来ました。が・・・。
駆逐艦雪風は有名な船なので、昔から雑誌「丸」とかでも何度も記事になっており少しでも太平洋戦争の武器について興味のある方なら、その生い立ちと終末はご存じなのではないかと思います。
そういう意味では、本作が史実に忠実ではない点が目につき、特に創作された艦長の最期は異常に違和感のあるものでした。雪風自体は、戦艦長門、空母信濃(大和型三番館)、戦艦大和などの護衛任務から終戦前は呉鎮守府付きとなり海軍工廠の防空に当たり、広島の原爆投下も見届ける。最後は台湾海軍駆逐艦となり、大阪万博後に台風による座礁事故が原因で解体されるという数奇な運命をたどった。その歴史や史実の重さを鑑みるに、話の描き方や無意味な創作部分、役者の振る舞いのさせ方に軽薄さが漂ってしまっていた。
ストーリー上の駄作加減が目についたのは、なんといっても天の声と画面上のキャプションの存在でしょうか。作中で、先任伍長に沈船後の海上から救われ、雪風に配属になった若い雷撃手が天の声の主のようでしたが、大阪万博の映像の出方の順番や作戦行動中のキャプションの出し方の意味合いがなく、そんなものを出さずとも全体の流れなどいくらでも理解させられるだろうと観ている者は思ってしまう。艦長が艦の前方の天蓋から頭を出し、三角定規で爆撃機の爆弾の降下経路を読んで操舵手に舵輪を回させるのも、雪風の見事な爆弾回避の具現化として再現したのだと思うが、妙に嘘っぽく見えてしまったのは何故なのか。特にがっかりしたのは、大阪万博と関西万博を掛けて、最後に雪風の主な乗り組み員に、甲板から「未来の日本を頼んだぞ」みたいな叫び声を上げさせるところかなぁ。天の声の主の心の眼なのか監督の思いなのか、いずれにしてもかなり稚拙な表現だ。
脚本と演技指導?が良くないと思わせるシーンもかなりあり、作品全体の質を落としている。艦長が作戦の間に呉の家に戻るが、その晩には艦に戻ると言うのに妻との立ち振る舞いはぎこちなく、義父が訪ねて来たときには艦長は玄関に突っ立ったまま挨拶をする。私の父の時代でさえ、久しぶりの肉親にとの挨拶は深く床に額を付けて何度も何度も礼をしたものです。戦闘中に、先任伍長が若い雷撃手を米軍機の機銃掃射から守るために突き飛ばし、自分だけ死んでいくのも駄作の象徴とも云えるシーン構成(まるでシビル・ウォーのカメラマン リーと同じだ)だけでも評価2点に値する(笑) さらに、日米映画の講評シーンや艦体の清掃シーン、魚雷整備のシーン、食事シーンなどの乗り組み員に関するシーン全てが稚拙で、どのような意図で描かれているのかわからない。これは、様々な艦体や艦と海と会敵シーンでも云えることだが、雪風という鑑を描きたいのか、その乗り組み員を描きたいのか、たぶん後者なのでそういう描き方になっているのだろうが、絵的には(CGやセット費の問題もあるんでしょうが)アップのシーンが多く、全体が俯瞰できないことから来る映像的な咀嚼不足でのイライラが募る結果になっている。セリフのない風景としてさらりと流せばわかるシーンにできた筈。できれば(無理を云うけど)、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」のような構成を期待していましたが残念。
これなら、はっきり云って1964年の映画「駆逐艦雪風」(長門勇、岩下志麻ら)の方がずっと艦と乗り組み員とその家族を含めた物語になっていると感じますね。
前宣伝と豪華な配役がもったいない作品でしたね。
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