「庵野、ガンダムやるってよ。」機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
庵野、ガンダムやるってよ。
大ヒットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズの最新作。製作をこれまでのサンライズに加えて『エヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズのスタジオカラーが担当し、脚本を庵野秀明が榎戸洋司と共同執筆。監督には鶴巻和哉が関わっている。劇場用シリーズではなく、あくまで放送予定のTVシリーズの序盤を劇場用に編集した先行上映版。
私自身は、ガンダム未経験。この先も触れる事のない作品だと思っていたのだが、本作のメインキャラクター:アマテ・ユズリハ(マチュ)をはじめ、謎の黒髪美少女ニャアンら女性キャラクターのビジュアルが非常に好みだった事、ガンダムを戦争の道具としてではなく、作中オリジナルの“クランバトル”という金銭を賭けた違法戦をメインに描くというオリジナリティに興味を惹かれて鑑賞。
開始早々、ファンには堪らないであろうビッグサプライズが飛び出す。ガンダムを知らない私でさえ、作品があまりにも有名であるからこそ知っている登場人物や過去作との違いに興奮を禁じ得なかった。予告編では一切明かされていなかったこの要素を、ガンダムに詳しくないからこそ事前情報に触れずに鑑賞出来たのは僥倖だった。この前半部分は、主に庵野秀明監督が担当したという。まさに庵野節全開の「これが、俺の考えたガンダムだ!」という内容だった。まさか、この部分だけで(恐らく)全体の尺の半分を使い切るとは(笑)
そんな圧倒的な熱量の前半に対して、ようやくお目見えとなった本作のメインキャラクターマチュがクランバトルに巻き込まれて行く流れは、駆け足気味で淡々としており若干拍子抜け。ニャアンが難民地区出身であろう事や、運び屋として過酷な生活を強いられている事、軍警の横暴さに怒りを抱いてジークアクスのパイロットとなるというのは分かるのだが、どのキャラクターも内面含め魅力が伝わってくる前にストーリーばかりが進むので、ドラマとして弱いのだ。『エヴァ』の渚カヲルを彷彿とさせる謎に包まれた美少年シュウジが出会い頭にマチュやニャアンの髪の匂いを嗅ぐというのも、セクハラ的。美少女を赤面させるなら、別に目をジッと見つめるとかでも良いだろうに。
メインであるモビルスーツ(MS)戦は、劇場の大スクリーンで鑑賞するのに非常に適しており、迫力十分だった。Vtuberの星街すいせいが楽曲提供した事も話題となっていたが、まさか1番美味しいクライマックスバトルで掛かるとは思わなかった。今回の作品の雰囲気との相性も抜群に良かったと思う。
CGを駆使したコロニー内の街の描写は、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』や『インターステラー』を彷彿とさせる。邦画実写では難しい、こうした空間的拡がりによる説得力の高さはアニメならでは。
好き勝手暴れる庵野秀明監督の面白さに圧倒され、謎だらけのメインストーリーは、あまりにも謎だらけだからこそ続きが気になって仕方ない。観念して、TVシリーズが放映開始されたら視聴しようと思う。
満足度が決して低いわけではないのだが、「一本の映画」として観るのなら、このくらいの点数だろうか。