「さすが櫻井さんの脚本。原作が好きな大人向け」名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック) りこさんの映画レビュー(感想・評価)
さすが櫻井さんの脚本。原作が好きな大人向け
サスペンスとしての濃度が高く、見応え十分の劇場版でした。
さすが櫻井武晴さんの脚本。
警察や政府という“組織”の中で、それぞれの職務、信念、そして「正義とは何か」という問いが交錯する構成は非常に緻密。情報量も多く、初見では追いかけるのが大変。アクションやギャグは控えめ、重厚な心理描写と高度な会話が中心。対象年齢はやや高めの印象です。
今回は長野県警メンバーの活躍がフィーチャーされており、彼らのかっこよさはもちろんのこと、小五郎のおっちゃんの人間味と“大人のかっこよさ”が光っていたのも印象的。
長野県警メンバーとおっちゃんがメインかと思いきや、灰原、安室、風見、蘭、少年探偵団といった他キャラもそれぞれの個性や立場を活かして自然に絡んでいて、チームとしての一体感がありました。
特に、風見さんがコナンくんに“こき使われる”描写は、シリアスな展開の中で絶妙な息抜きとして機能しており、過剰にならないユーモアとして好感が持てます。
ギャグは控えめで、キャラ推し・ラブコメ層にはやや物足りなく感じるかも。
「名探偵コナン」という作品そのものが好きな人には楽しめる内容だと思います。
犯人や被害者の描写にも厚みがあり、単なる加害/被害では語れない人間の揺らぎや葛藤が丁寧に描かれています。特に印象的だったのが、1つの事件をめぐって登場する2人の犯人と2人の被害者関係者。
一人は罪を悔い、もう一人は悔いるどころか別の恨みを募らせる。
一人は必死に赦そうとし、もう一人は己の正義を信じ悪事に手を染める。
それを分けたのは、「勇気」と「倫理」だった、と。
真逆の反応をする人物たちが、それぞれ真逆の人生を歩んでいく。その対比が非常に効果的で、物語に深みを与えていました。
「同じ8年をお前はどう過ごした?」といったセリフが、対岸にいるような彼らの関係性を浮き彫りにし、それぞれの選択に説得力と重みを持たせていたのも見事。
ラストシーンでの犯人のセリフが、上原刑事の言葉と重なり、対比した立場でありながら「共感」を生み出す構成も秀逸でした。
小学生が長野県警の捜査に受け入れられていたり、博士の新しいトレッキングシューズの機能説明なしに大活躍していたりと、細かい点で気になる部分はあるものの……そこはもう「コナンくんだから」で納得。芸能人声優も作品の雰囲気に自然に溶け込んでいて、違和感なく観られました。
ただ、テレビで何度も見返すタイプの作品かというと、派手なキャラ萌えや“推し”の活躍シーンが少ない分、やや地味に感じられるかもしれません。初期のコナンが好きな人にはとてもオススメの作品。
初監督の重原克也さんも、重厚な脚本の魅力を損なうことなく、過剰な演出に頼らず、丁寧でバランスの取れた映像化をされていました。
監督としての個性を強く押し出すというよりも、「名探偵コナンらしさ」やキャラクターの持つイメージを崩さず大切にされていた印象で、「余白」を感じる演出に好感が持てました。
個人的には、立川譲×櫻井武晴コンビによる映像美と緊張感もまた観たい!という思いがありますが……本作もまた、完成度の高い一本です。
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