「つい語りたくなるChageの物語(長いよ)」シネマティックコンサートツアー Chageのずっと細道 東西南北 KANOさんの映画レビュー(感想・評価)
つい語りたくなるChageの物語(長いよ)
紆余曲折あった人生である。
というのは、今回の銀幕スターの話ではない。
自分自身の話である。
私個人の話となるが、圧倒的な才能を持つ人々と間近に触れ、密かに夢破れ、
今は多忙なサラリーマンとして日々仕事に勤しんでいる。
そして何の因果か、色々な職種や職場を経て、今は映像の仕事に携わっている。
一応プロフェッショナルな立場なようだ。
だが圧倒的な才能には恵まれることなどもなく、東京の片隅で毎日の業務をこなす小さな人間だ。
さて。
今回の主演、銀幕スターことミュージシャンのChageである。
映像の端々から感じる、プロフェッショナルであることの矜持と努力。
生まれ持った才能という意味においては、紛うことなき天才なのだろう。
だけれども、それだけで45年間もの長い期間、
同じ道を歩めたわけではないことが、ヒシヒシと伝わってきた。
そもそも一本道ではなかった。
彼が(、というよりもこの場合は彼らが)歩んできた道が、
獣道、茨の道であった側面は否定できないだろう。
華やかな活躍の裏で、新たなフィールドを切り拓いてきた開拓者なのだ。
(なお、開拓そのものが表舞台として華やかに映し出されていた時期もある。)
そして、今も挑戦を続けている。
なぜ還暦を過ぎて、なぜこんなにも頑張れるのか。
今までの軌跡をなぞって漫然と活動してもいいはずだ。
これまでの経歴を糧に引退し、夢の印税生活もいい。これが可能な一握りの成功者だ。
なぜ今も頑張れるのか。
45年という長い期間。
私がこの世に生を受けるよりも数年前から走り続けているこのレジェンド。
そのレジェンドの「ド素っぴん」がチラチラと顔を覗かせ、
なんだ、同じ人間じゃないか。このちゃげっていうひと、同じ人間だったんじゃないか。
そう感じることができた稀有な映画だった。
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今回のロードムービーの中に出てきたライブ(ないしイベント)に、自分は都合三度、参加した。
本編では一部順番が入れ替えられていたが、時系列だと、
4月5日の下北沢シャングリラ、4月21日のスパリゾートハワイアンズ、
そして10月13日の沖縄はガンガラーの谷、この3本である。
(しっかりと銀幕デビューも果たしており、とても良い記念となった。)
シャングリラでは、バインダーを持参し忘れるハプニングがしっかりとカメラに収められていたが、
この日はもうひとつ、チカラ姐さんの誕生日ということでステージ上でのバースデーサプライズもあり、
Chageの背中をバシバシと叩いて照れまくる可愛らしい姐さんが見られた。
後者は映画の中では観られず、半分残念、でも半分は参加者だけの思い出となり嬉しい気持ちもあり。
何を残して、何を残さないのか。そこにディレクターの意思が込められる。
記録映像とは面白いものだ。
シャングリラ、そしてハワイアンズの4月のライブにカメラが入っていることには気が付いていたが、
まさか後々こんなにも壮大な物語になるなんて、想像だにしなかった。
北九州の小倉記念館でハワイアンズのドキュメンタリーが上映されるとの話があったが、
関東在住でフルタイム労働者の身からは九州の地など流石に遠く、そもそも行く選択肢はなかった。
今になって幻の映画になってしまったのかと、観にいかなかったことを少々悔やんでいる。
4月時点ではわからなかったが、その後にどうもディレクターに火がついたようで、
よりコアな部分にグイグイと入り込んでくるようになったのが傍目にもわかった。
那覇・Top Noteで、22年振りの沖縄入りを果たした大スターを、
本当に嬉しそうに迎える小さなライブハウスのオーナーにグッとくる。
他地域のライブハウスに比して、ゆったりと配置された客席に、アットホームな空間。
そしてそこで久方振りの大スターとの時間の共有に涙する観客たち。
正直堪らなかった。
「細道」は東京で開催されることが少なく、開催された場合でも規模が大きめのことが多く、
“細道感”には乏しいと常々思っていたのだが、それがなんて贅沢なことだったのかと思い知らされた。
22年振りだなんて、新生児が四年制大学を卒業してしまう期間ではないか。
沖縄のチャッピーたちの想いがとめどなく溢れ出る風景に目頭が熱くなる。
どれほど心待ちにしていたのだろうか。
Top Noteにも参加しようかとわずかに思った。
でも、どんな顔をしてあの場に混ざろうというのか。
参加しない選択肢は正解だった。
そして、それを確信できたのが今回の映画だ。
切なくて堪らないほどの想いが伝わるチャプターだった。
なお、一応記しておくと、各地から参加した方々を責める意図は無い。
あくまで自分の価値観に照らし合わせた話でしかないので、誤解なきよう。
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さて、(恐らく)この沖縄細道のメインディッシュ、翌日のガンガラーの谷ライブである。
個人的には10年以上前にこの場所を知ってから、いつか行きたいと思っていた場所である。
今回を逃したら、死ぬ間際に間違いなく思い出し後悔する出来事のひとつになるだろうと思い込み、
参加を決断したのだが、こちらも大正解だった。
チャゲアス 、Chage、ASKAを中心に、
それなりに様々なミュージシャンによる、それなりに多様な形態のライブを鑑賞してきた。
そのすべてと比較しても、ガンガラーの谷の音の良さは別格、圧倒的であった。
この神秘的な空間をつくりあげている鍾乳洞の主な成分は琉球石灰岩。
この石灰岩には細かい孔が多数あり、適度に音を吸収するのだという。
音が響き渡るハワイアンズの真逆、と自分は理解した。
音が篭らず、反響が絶妙。
また出入口部分がひらけているためか、音がきれいに拡がった後、真っ直ぐに抜けていく。
「遠い街から」で大ちゃんが最初に打つカホンの「トンッ」の音から明らかに違っており、
瞬時にツレと目を見合わせて驚嘆した。
そんな空間なものだから、ボーカルの声が本当に力強く伸びて、信じられない極上の時間だった。
今回の映画で、もしもケチをつけるとしたら、
残念ながら実際のライブの音の方が良かったよ、という一点のみである。
歌舞伎町の、日本最高級の音響施設を持ってしても、である。これは再現技術の限界なのだろう。
そんな中、本編で取り上げた一曲が「終章」だったことには拍手を送りたい。
あの曲はあの時、本当に神がかっていたのだ。
暮れゆく薄暮のロケーション、また最低限の照明というシンプルな演出もあって、
このまま時間が止まって欲しいと願うような、そんな凄まじい5分間であった。
これを会場の外から、環境音と共に聴かせるという映画での演出には舌を巻いた。
ライブに参加していても、参加していなくても、
どちらの立場の人であっても新しい感情と出会える長回しのワンカットだったように思う。拍手。
ちなみに音響の話で言うと、PAさんがとても良い仕事をしたのだと、某スタッフさんから聞き、
このステージに合わせた音響を作り上げた担当者様にも最大限の感謝を述べたいところである。
時空を飛び越えて湊川人にも聞かせたいものだ。
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その後映画は、静岡、水戸、岡山、高知と各地での様子をつなげる。
行ってみたいとは思いつつ、縁もゆかりもない地域に乗り込む勇気と時間と金のない自分としては、
その一端を垣間見れるのはとてもありがたかった。
毎度変わらずライブのクオリティを維持しているChageではあるが、
その土地土地での表情は少しずつ違うように見えた。
自分の数少ない遠征参加のライブ先を思い返すと、東京近郊とは少し違った各地のChageを思い出し、
あちらこちらに遠征する人々の気持ちもわかったというか。
Chageが「ずっと」という言葉を付けてまで、
各地、それもそれなりに田舎の地域も含めて、各地を巡るのには、
彼の遅すぎる青春のカケラ探しがあるのではないかと思う。
自身が口にしていた、
人気絶頂期に、ライブの終演まで会場に残ることができず、逃げるようにその場を去った経験。
初めて知った話であり、結構な衝撃であった。一瞬意味が理解できないほどに。
還暦ライブの時に話してくれたんだったか。
初ソロツアーの終演後、観客がBGMに合わせて「トウキョータワー」を合唱。
しかしそこに混ざれず、ステージの袖で耳を傾けていたというエピソード。
これを本人が曰く「喉に小骨が刺さった」状態だと。
今この人は、喉とか、指とか、脛とか、至る所にチクチクと刺さった小骨やら棘を、
ひとつずつ抜く作業をしているのではないかと思った。
(あ、やばい、書いてて泣けてきた……。)
まだまだ元気とはいえ、70の足音が聞こえてくる歳の頃。
この先に後悔を残さないよう、自分の人生を歩んで行こうと決心したのだろう。
「たった一度の人生ならば」と、その人生観を素直に歌い上げる曲までつくっている。
「遠景」と呼ばれていた頃に、坂本監督がコレを喰らってしまい、心に深く突き刺さったのもよくわかる。
……あのMVは最高だった。「幸せな不条理」よりも自分にはぶっ刺さったな。
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人生を謳歌するように、歩き続けるChage。
その眼前には無限大の可能性が拡がっており、
振り返るにはまだ早すぎる――そんなふうに続きを渇望してしまう映画であった。
私にはわからないだけで、Chageも紆余曲折あった人生なのかもしれない。
しかし、音楽という一本筋だけは決してブレることなく、踏み締められた街道が前後に延びる。
それを紆余曲折と呼ぶには、あまりにも太く、強く、真っ直ぐ過ぎやしないかい。
自分も今この時をしっかりと踏み締めて歩こうと思わされた、極上の2時間であった。
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ここまで長々と書いても、まだまだ想いを書ききれない。
ので、以下つらつらと、取り留めなく。
映像は、比較的スタンダードな見せ方で、きちんと感情を揺さぶるように構成されており、とても良かった。緩急の付け方、曲のチョイス、音の乗せ方や被せ方。FIXでの長回しでも観客の目を釘付けにする画角やそのセレクト。視線の誘導、伝えたい意図に合わせた映像選び、全体の流れ…上げたらキリないな。観ていてストレスなく、適度なテンポ感、ラフさがあり、諸々良き。
使っている機材が気になる。白ホリの座姿、すごく好き。画角メチャクチャ真似したい。ディレクターにやらせるか…いや、どっかで自分で真似する! 引きの定点固定撮影、何使ってるか聞きたい。ライブの音は何で押さえていたんだろうか? 等々マニアックトークしたい。なんちゃってへっぽこ映像マンですけど。
振り返ると2024年は自分的にも激濃かった。初シャングリラ、もっと昔じゃなかったっけか、くらいに。2025年はどこに行こう?
フーバルしゅうちゃん、サイコーだった。「あの素敵なおっさんにかっこいいジーンズ履かせたろ」はマジサイコー。すっげーわかる。よっ!シャチョー!
大ちゃんが想いを吐露するところ、たまらん。なにあれ。どんな気持ちで支えてるのかと常々思っていたが、なんかもう泣けて仕方ない。引き続き、一緒にやりたいと思わせられるように頑張って欲しい。心の底から応援。
チカラ姐さんは引き続きChageちゃんとマジ友達のトーンではしゃいでて欲しい。Chageちゃんがいつも笑顔である一要因は、間違いなくチカラちゃん。ふたりとも可愛すぎ。なんだあれ。
アコースティックギター好きなので、弦交換に死ぬほどテンション上がった。手際いいし、切断の思い切りがいいし、ペグを回すと音階が上がるその音が自分の作業時とも一緒でなんかキュンとしたし。毎ステージ交換してたらお金かかるなぁ、そらステージ上でちょいちょいチューニングするわな、とか。どこの弦使ってるんだろうなぁとか、いい音だなぁとか…。アコギ好きには地味にたまらん。
ああ、語り足らない! 2時間に収めた監督に拍手!
4時間版ディレクターズカット、こっそり見せて欲しい…。