「裏をとれ」セプテンバー5 Takさんの映画レビュー(感想・評価)
裏をとれ
実録モノの作品が好きだ。
事実である、という裏づけが物語の格を一つ高めてくれるような気がして、
より集中力を持って観ることができる。
この映画の題材も、この作品がなければ知ることはなかった事実、事件だ。
物語の冒頭は少し観づらい。
登場人物のキャラクター付け、彼らのABCにおける立場、役職などが
イマイチ説明されないまま進むのでちょっと混乱する。
また当時の戦後ドイツという国の国民感情、歴史背景なども一瞬戸惑うところかもしれない。
ということは一旦差し置いて、
ほとんどセットだけ、ワンシチュエーションの物語構成でラストまで見せ切ることができているのは、
やはりこの物語が「事実である」という点が大きいと思う。
テレビ中継がまだ黎明期の頃の技術、システムを知ることができる、という部分は
個人的には面白かったが、多くの人にとってはむしろ退屈で歯痒さを感じる点かもしれない。
衛星の使用可能時間を局どうしで調整したり駆け引きしたりなどというのは、
観客にどう受け止められるのかな?と思いながら見た。面白いのかな?
真実とは何か?
「そこにカメラを置き、時事刻々と変化する事実を伝えること」をABCスポーツ班は選んだ。
慣れない言葉の言い回しや、むしろテロリストに有利な情報を中継してしまった?などの
問題点を乗り越えて中継は終わる。
ジャーナリズム、真実とは?という視点からこの作品は論じられることが多そうだ。
「ZDFが言っていた」「ここはABCだ!」というくだりが個人的には好きだった。
真実を伝えるって、なんだ?
個人的にはこの話は「裏を取れ」という話なんだな、と思った。
ラストシチュエーションではこの「確認(confirm)できたのか?」というセリフが、しばらく飛び交う。
誰が、どう確認すればいい?
政府が言ってることすら当てにならない。
現代においても、ネットや週刊誌は不正確な情報で埋め尽くされている。
裏をとれ。確認しろ。
1972年のミュンヘン五輪テロの現場で飛び交ったこの言葉。
今や、AIやフェイクの氾濫で当時以上に世界中のメディアは「確認」に翻弄されている。
私たちも一人一人が、「裏を取れ」ということを意識して暮らしていかなければ、
SNSのちょっとしたニュース、噂を簡単に信じ込んでしまう。
「裏を取れ」。
ABCスポーツ班のクルーの苦悩を、今の私たちも同じく背負って生きていくべきなのだろう。
きっと。