「実に見事」セプテンバー5 白波さんの映画レビュー(感想・評価)
実に見事
歴史的な1日を追体験する、これは見事でした。
オリンピックの選手村を襲ったテロ、ミュンヘンオリンピック事件を題材にしたシリアスな作品。
テロ事件そのものでなく、事件を追うTVクルーの物語なのが斬新でした。
だから思想や国家間の問題は最低限の描写。
あと色調も当時のようなカラーグレーディングを施し、施された機材も凄いことに。あんな古いものどこにあったのやら。
物語はじっくりとタメを作った後、急ピッチで動き出す現場に引き込まれました。
スタジオという閉鎖された空間の緊張がピリピリと、少ない情報を何とか集めようと錯綜する熱量がすごいです。
この張り詰めた空気がずっと続くので、観ているこちらもつい力が入ってしまうんですよ。
最後、機材の電源を落としスタジオを後にした後のエンドロール。どっと疲れが出ました。
事件のその裏側でも、こんな闘いがあったのですね。
その描き方、実に見事でした。
そしてこれは史上初の「テロに寄る悲劇が生中継された瞬間」であって、決して「倫理のない報道からくる悲劇」ではないと思っています。
もちろん報道倫理や規制に関心が動いた機会ではあったと思いますが、あくまでも全くテロに対応できなかった西ドイツ側の失態でしょう。
そもそも選手村のフェンスをバッグを持って乗り込んでいる姿を目撃しているのに、それをスルーするところから事件は始まります。
事件後も現場にいたのはただの現地警察官で、もちろんテロリストに対抗する装備も訓練も行ってません。
狙撃手もただの警官でスコープも無く打てない、情報も錯綜し他の作戦も全て後手後手。
それを裏付けるように、事件後西ドイツは公式に調査も行っていません。
そして同じくIOCも同様の対応で、遺族のオリンピック開会式での黙祷の希望も聞き入れられませんでした。
驚くべき事にこの願いが届き、イスラエル選手団への黙祷が実現したのが、2021年東京オリンピックの事です。
映画とは直接関係ないのですが、オリンピックはの裏にはどうしても色々あったりしますよね。