「初めてのことをやり遂げた人々へのリスペクトが感じられない」セプテンバー5 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
初めてのことをやり遂げた人々へのリスペクトが感じられない
人質事件の現場や、それを取材するテレビクルーの様子などは一切映されず、テレビ中継の調整室と、それがある建物から画面が離れることはない。
そのため、まるで、スタッフの一員になったかのような臨場感と緊迫感が味わえるし、密室での閉塞感もひしひしと伝わってきて、観ているだけで息苦しくなってくる。
それに加えて、外部との連絡手段が、トランシーバーと有線電話と電報しかなく、おまけに、ドイツ語が分かる通訳が1人だけという状況で、欲しい情報が手に入らないもどかしさと、焦燥感も追い打ちをかけてくる。
人質が処刑される瞬間を放送しても良いのかと悩んだり、テロリストに警察の情報を与えてしまっていることに気付かなかったりと、史上初めてテロを生中継することになったスタッフたちの葛藤や失敗も生々しい。
極めつけは、事件の結末に関する「誤報」で、スクープをものにするための迅速性の追求と、複数の情報源による信憑性の確認という、ジャーナリズムの永遠の課題が、ここでも胸に突き刺さってくる。
エンディングでは、登場人物たちの疲労感と暗澹たる気持ちが痛いほど実感できるのだが、その一方で、仮に、事件が無事に解決されていたならば、彼らもこれほど落ち込むことはなく、むしろ、初めてのことをやり遂げたという達成感を得たのではないかと思われる。
その点、せっかくテレビマンたちの奮闘ぶりを描いておきながら、テロの生中継のマイナス面ばかりが印象に残り、その意義や功績がほとんど感じられなかったことには、やや釈然としないものが残った。
インターネットが普及した今の時代にも通じるマスメディアの問題点を、批判的に描くのは大いに結構だが、史上初の難題に取り組んだ先人たちに対するリスペクトが、もう少しあっても良かったのではないだろうか?