「ジェフの知り得る内容で画面が展開するのだが、彼が事前に知っている情報(内部の人間関係)が語られないので、内容把握はかなり難しい」セプテンバー5 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ジェフの知り得る内容で画面が展開するのだが、彼が事前に知っている情報(内部の人間関係)が語られないので、内容把握はかなり難しい
2025.2.24 字幕 イオンシネマ京都桂川
2024年のドイツ&アメリカ合作の映画(95分、G)
実際に起きたミュンヘン五輪テロ事件を放映局目線で描いた伝記映画
監督はティム・フェールバウム
脚本はモリッツ・ビンダー&ティム・フェールバウム&アレックス・デビッド
物語の舞台は、1972年9月5日のドイツのミュンヘン
五輪中継を行なっていたアメリカの放送局ABCのスポーツ局は、スポーツ運営局長のマーヴ(ベン・チャップリン)の指揮の下、管制室長のジェフ(ジョン・マガロ)を中心としたチームでライヴ中継を行なっていた
その日は男子水泳の決勝戦が行われていて、ジェフは冷静に試合を見つめ、的確なカメラワークを指示していた
そして、朝の4時40分頃、「黒い九月」のメンバーが選手村に侵入し、イスラエル選手団の宿舎へと突入した
その後、AK-47による銃撃が起こり、ABCのスタジオでは複数の人間がその音を聞くことになった
ジェフたちは事実確認を行うために各方面から情報を募ると、どうやら選手村にて何かが起こっているらしいということがわかった
その情報は即座にラジオ放送やドイツの公共放送などを通じて流れるようになり、ジェフは通訳のマリアンネ(レオニー・ベネシュ)に翻訳をさせて、事態の進展を見守った
オリンピックタワーから選手村は一望できたが、そこを移すためのカメラはなく、そこでスタジオカメラを1台外に出して撮影を試みることになった
また、現地に16ミリを持たせたカメラマンを配することになり、カメラアシスタントのゲイリー(Daniel Adeosun)、カーター(Marcus Rutherford)とマリアンネを派遣していく
マーヴは社長のルーン(ピーター・サースガード)に伺いを立てて許可をもらい、方々から情報の裏どりを始めて、他局との番組枠の争奪合戦を繰り広げていく
現場はジェフに一任され、アンカーのピーター(ベンジャミン・ウォーカー)に指示を出して原稿を読ませ、ジャック(Zinedine Souailem)はカメラワークをコントロールしていくことになった
状況が全く掴めないまま、ようやくイスラエル選手団のいる場所がわかり、その窓からテロリストたちの様子も見られるようになった
イスラエルの内相も現地に赴き、料理人のふりをして中に入ろうと試みたりするものの、なかなかうまくはいかない
そんな折、警察のサンシャイン作戦が動き出し、外壁や屋上に警察が配備されるのだが、その様子をABCのカメラが捉え、放送に乗せてしまったのである
警官隊が放送を止めるようにと乱入し放送は一時中断するものの、結局は追い返して放送を続けることになった
そして、そうこうしている内に犯人グループが移動するという情報が流れ出す
マリアンネたちも動き出し、移送するためのヘリも到着してしまう
行き先は近くの空軍基地だと推測され、スタッフもそこに向かう
だが、なかなか中の様子を捉えることができず、マリアンネの叫びだけがスタジオ内に響きわたるのである
映画は、テロをライヴ中継してしまったABCの顛末を描き、ドイツが軍隊を突入させられなかった実情などが飛び交っていく
マリアンネが超有能キャラなので何が起こっているのかが手に取るようにわかるのだが、実際にはここまではっきりしたことはわからなかったと思う
事件の概要がわからないために「テロリスト」とも呼べず、選手のふりをして選手村にスタッフを突入させるなどの無茶もやっていく
そんな中、ドイツの報道官が「人質は無事に解放された」と発したことから、ABCもそれを信じて流してしまう
だが、その言葉の端々に違和感を感じたマーヴは裏どりのない情報は流すなと忠告する
それでもルーンの命令によって、ジェフは「噂では」という言葉を付加して、アンカーに話させてしまうのである
その後、現場にいたマリアンネからの一報が入り、まだ銃撃戦が続いていることが知らされる
祝杯ムードのスタジオの空気は一変し、そして、公式的な発表として「人質は全員死亡」という事実が突きつけられるのである
映画は、ジャーナリズムの裏側を追いながら、リアルタイムに感じるような構成になっていた
実際の事件は、午前4時40分に始まり、午後11時30分頃に応援部隊が到着して、全てが終わっていたことがわかっている
人質9名、警察官1名が死亡し、犯人側はリーダーを含む5名が死亡し、3人が逃走を図った
その3人も後に逮捕されることになるが、同年10月20日に起きたルフトハンザ航空615便ハイジャック事件にて解放されている
また、オリンピック自体は、9月6日の午前10時に再開し、中断していたのはわずか34時間だった
いずれにせよ、約18時間ほどの出来事なのだが、ほぼリアルタイムに感じられるほどに濃厚な凝縮がなされていた
無駄なシーンもほとんどないのだが、あまり説明がないので、放送局内部の人間関係というものがほとんどわからないまま話が進んでいく
なんとなく雰囲気で掴んでいくしかないのだが、この内容ならパンフレットを作って解説してくれないと厳しい
あの現場には約15人ほどいて、1カメにピーター、2カメにジム・マッケイが別スタジオでゲストを招いて放送を切り替えていたが、それ以上を把握するのは難しい
また、外に出たマリアンネたちを追う映像がなく、ジェフを中心として、外の音と見える範囲の映像だけを使っている
俯瞰するショットがほぼゼロなので、それが没入感を生んでいるのだが、画面が暗く、かなり疲れる映画なので、覚悟して臨んだ方が良い作品であると思う