「素晴らしい演技、最後の30分は鳥肌もの」消滅世界 じょうさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい演技、最後の30分は鳥肌もの
『消滅世界』(2025)
川村誠監督が言うように、これは紛れもない「思考実験」だ。
人工授精が当たり前になり、夫婦間の性行為が「近親相姦」として最大のタブーとされる世界。
性愛の対象は家庭外の恋人か二次元キャラクターのみ――突拍子もないと思うかもしれない。
だが、栁俊太郎が演じる夫・朔の言葉「家族とは人生における絶対的なパートナーであり味方」は、驚くほど理想的で、誰も異を唱えられない。
家族は刺激ではなく、ただひたすらに安定であるべきだ、という価値観だ。
現実では家族関係は絶対的な安定とは言えないこともあり、それは性愛が家庭内に持ち込まれること(性愛の延長線上に家族があること)により引き起こされることもある。
だとすれば、朔が求める家族の姿(性愛は家庭外として家族には絶対的な安定を求める)は「ありえないディストピア」ではなく、AIやロボット技術が進化した先に十分に成立しうる一つの理想郷なのではないか。
雨音(蒔田彩珠)と朔は、それぞれ外部の恋人に傷つけられた末に「エデン」へ移住する。
そこには二人と子供しかおらず、もう誰も自分たちを傷つけないはずだった。
しかし朔は最後に、雨音にとっての「家族の絆」を自ら断ち切る。
そして自らの信じる世界が崩壊し、狂った雨音(母親を動物扱いし、自らを進化した存在だと自認した)が最後に選んだ行為――原作の言葉を借りれば「セックスを作る」こと――は、一周回って今の私たちが当たり前にやっていることそのものだという皮肉。
蒔田彩珠の演技は今年観たどの映画よりも胸が締めつけられ、圧倒された。
常識を根底からひっくり返されたい人、
普通の映画では物足りなくなった人に全力で薦めたい。
原作を読んでいなくても面白い。でも読んだらラストシーンの仕掛けにハマりもっと面白い。
