「文学的表現の最上級映像作品」消滅世界 きりこさんの映画レビュー(感想・評価)
文学的表現の最上級映像作品
先日、映画『消滅世界』の試写会に参加しました。
上映前には川村監督と主要キャストによる挨拶とトークが行われ、
和やかな空気の中にも作品への確かな熱量が感じられました。
印象的だったのは、監督が俳優たちに演技プランを提示する際、
音楽担当・D.A.N.による主題歌を聴かせたというエピソード。
音から物語のトーンを共有する——
その手法に、この作品の繊細な世界観の根源を垣間見た気がしました。
そして、いよいよ本編へ。
原作を既読の身としては、やはり映像化のバランスが気になるところでしたが、
結果は見事。
115分があっという間に感じられるほどの完成度でした。
原作に忠実でありながら、単なる再現に留まらない。
性的な描写をあえて直接描写せず、
観るものに想像の余地を残し、あとは各自それぞれの情動に託す——
監督の手腕と映像的センスを垣間見るようでした。
何より圧巻だったのは、蒔田彩珠の演技。
彼女が体現する「消滅」と「生」の境界には、息を呑むようなリアリティがありました。
ラストシーンは、静かな絶望と美しさが同居し、まさに鳥肌ものの瞬間です。
映像は端正で、どのカットにも意識的な構図が感じられる。
原作の印象的な台詞や世界観を損なうことなく抽出し、
読者でなくともこの異質な世界に自然と引き込まれるでしょう。
最後まで一切の冗長さがなく、緊張感を保ったまま着地する作品でした。
公開日が待ち遠しい。
静謐でありながら確かな余韻を残す、今年屈指の文学的映像体験です。
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