「日本人の大人、日本人の社会人の極み」新幹線大爆破 movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
日本人の大人、日本人の社会人の極み
迅速な思考と緻密な計画性、揺るがない倫理観、最後まで諦めない利他精神、仕事を投げ出さない根性。
草彅くん演じる鉄道乗務員の高市、のん演じる運転手の松本、斎藤工演じる司令塔の笠置。
3人はプロフェッショナルな日本人だった。
東北新幹線はやぶさの上り車両にいくつもの爆発物が仕掛けられ、100kmより時速が下がると爆発する。
なんと、起爆装置を仕掛けたのは25年前の新幹線爆発事件で自決した犯人の息子に手を借りた、25年前の事件の担当捜査官の娘。高校生。
豊島花が出てきた時点で、あぁこの子は家庭で苦しい思いをしているかいじめられているかその両方だなとわかるキャスティング。友達は心配してくれているので、家庭だなとわかる。
でも、怪しげな乗客松尾聡は、ヘリ操作で8人が亡くなったらしく、人目につかないように自暴自棄に陥っていただけで、犯人と怪しませるミスリード役。
途中から、てことは高校生かとわかる。
3人のプロフェッショナルが責務を全うし健闘している間に、乗務員には若手の藤井が乗り合わせ感情的になりやすく高市に嗜められたり、乗客には、人の話を聞く姿勢もままならない修学旅行中のアホそうな高校生達、目立ちたがり屋YouTuber等々力、ママ活スキャンダル後の政治家と秘書、今どきの野次馬青年達、医師、電気技師のおっちゃんなど色々乗り合わせている。
みんな様々な事情を抱えながら、まだまだ未熟な日本人として成長中。責務を果たすプロ3人のような立派な日本人になる手前の、ひよっこ日本人。
会話が日本語オンリーでwhat?と言っている外国人乗客が一瞬いるところこそ日本人の仕事ぶりの短所も見受けられるが、本作では日本にありがちな、判断遅れで後手に回る、一瞬を急ぐ場面でそれ話してる間に手遅れになるよと思う長い感動会話、無駄な丁寧、ここぞクライマックスに蔓延る頑張れ精神論などが見受けられずにとても良い。日本の新幹線そのものの技術力、鉄道インフラの技術力、工事の技術力、更に人材の質の高さを海外鉄道網に自慢したくなるような作品だ。
時間に緻密で、秒単位の鉄道ダイヤを計算し被害を最小限に抑えるように指示を出していく斎藤工、精悍でとてもよい!今作ではアウトロー要素なし!海猿で2列目にいた時のような緊張感のある無駄のない面持ち。
政府からやって来た威張り野郎佐々木を演じるいつもクズ役の田村健太郎も、途中から現場に敬意を払い頭を下げた!配役がとても良い。
まずATCを解除して自動ブレーキも解除して新幹線が120kmを維持するようにして、その他新幹線との衝突を避けながら走り続け、爆発物があるらしき後方車両を切り離し、尾上松也運転のお助け列車が後から追いかけて連結、お助け列車に乗客全員を移し、前方車両を切り離して終わりのはずが、8人が前方車両に取り残されたまま。海外映画なら前方車両の8人はfor allのために見捨てるだろうが、政府方針以外は一人残らず助けたいのが日本人精神。
犯人の女子高生も含めて助かるように、前方のうち1番後ろの車両だけが分離されるように、1番後ろの車両にみんなで集まり衝撃回避し、線路の分岐を秒単位で操作し、首都圏手前の被害が少ない地域に緩衝水タンクを多数設置して後方一車両を受け止めて列車を止める。
それでも社員藤井は途中で背中から金属がぶっ刺さり息も絶え絶えの犠牲となったが、朝ドラあんぱんで石屋さんな細田佳央太らしく、力持ち印象を全うしていた。
草彅くん、のんと、圧力に屈せず生き残っている俳優さん達なので、粘り強い落ち着いた責任感に説得力がある。
女性議員役の尾野真千子が誰より肝据わってるのもぴったり。
しかし、前回の新幹線爆破で、爆発犯を取り逃しただけでなく、その隠蔽に犯人射殺の偽手柄を着せられた操作員が自ら偽手柄を吹聴し娘に暴力三昧、娘の感情を殺しサイコパスに育てて、その娘から復讐されるって、恐ろしい動機である。自己肯定感や承認欲求などの子供じみたものではなく、人が本気で感情を高めるリアルな光景を見たい、生きる意味を感じられないというかなり心を閉ざしてしまった動機だが、豊島花の冷めた動の演技がすごく上手。いつもの絶望を感じているところから、更に掘り下げてアウトプットする演技までできる子なんだなと、これから年齢とともに様々な役回りで出てくるのを早く見たいと思った。
暗い役はもう充分見てきたのでこの子に明るい役をさせてあげたい。
真下正義の時にも年配の頼れる線路図面引き屋さんが出て来たが、時代がデジタルに変わってもそこに頼りきらずにストップウォッチ1つで瞬時にダイヤから逆算判断できる鉄オタ頂点のような笠置が出て来て、日本人として安心した。
日本人なめんなよ、とこの作品と同等に思えるように、自らも日本人として仕事の質を保つように働いていきたいと思えた。速度を落とせない重責を担い、手が速度ハンドルを握りしめすぎて硬直してしまった松本が女性社員なのもまた、男女問わず日本人の社会人の極みを知らしめるようでとても良かった。
日本人にとっての、これぞ日本人。
実際の新幹線には、更にマナー度外視の外国人がいるし、政治の外国人観光客規制緩和を責める声も作中あるが、作中の犯人は日本人で日本教育の質の低下を感じさせる日本人乗客も多数。人を責める前に我がふり直すべしとも思うし、政治ばかり責めて情けないというのも、そう。最近の政治ほんと酷いけど。
残された8人を見送った後の、高市と松本がやっと緊張感から解き放たれる場面。JR社員達によくやったと囲まれ、どんなにか不安も感じないほど切羽詰まった最前線を背負っていただろうと、泣けた。
無事帰還後の差し入れは、あんぱんではなくマックのアップルパイなのね。なぜそこであえてマック?
Netflixに資金提供してるんだろうなぁマック食べながら鑑賞する消費チャンスだもんね頑張る登場人物に食べさせるのが絶好イメージアップだもんねと、そこだけ冷めた。
日本人が愛なく育てられ、日本人のその性質を誤った方向に作用させた時、途中で踏み止まれない綿密な爆発計画を実施し、特攻のような特異思想に陥ったまま完徹しそうになってしまうことがある。
でも、こんな殺人犯、海外なら射殺で終わりなのだが、首を絞めそうになるも高市は締めなかった。
1人の女の子の人生と苦悩と動機を詳しくは知らなくても、そこに至るほどの絶望を感じ取り、お客様だからとかを超えて、大人としてしてはダメだと思ったからである。同僚が瀕死の重傷を負っていても。
別の国なら理解できない感性かもしれない。
犯人を殺すか1000億円が払われれば爆弾解除できるのに、犯人と同乗し続け、幾多の工事費や被害総額を膨らませてでも、新幹線を余すところなくダメにしてまで取り残された8人を助けようとする。
8人には社会的に嫌われ者も多め。
それでも命に軽い重いの優劣を付けないのが、日本人。しかも、YouTuberを政治家秘書が叱りつけ、ヘリコプター会社元社長を女性政治家が叱りつけ、女性政治家はその他乗客から白い目で見られ、それぞれが自分の雑で傲慢な生き方を省みる時間まである。
嘘にまみれた綺麗な世界を生きる者達が、命の危機となり感情を露わにしても、自分だけ助かろうと暴走する者がいないのが日本人。
古賀!ピエール瀧!もうええでしょう!
高校生を使って50年前の親の罪の敵討ちって、やめたれよ。止めたれよ大人なら。
せめて小野寺爆破だけに留めるよう説得しろ。
小野寺娘の動機が強いとはいえ、新幹線にいくつも爆発物設置って、その良心のなさコカインでもやってるのか?!
プラレール遊びをまたしたくなった。
分岐を切り替えてすれ違ったり、並行に走らせて物資供給をしたり、車両連結と切り離しをしたりしたい。