「新旧比較で楽しむ大爆破」新幹線大爆破 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
新旧比較で楽しむ大爆破
1975年に制作され、現在もカルト的な人気を誇っている佐藤純彌監督の「新幹線大爆破」(以下「原作」)を現代風にリメイクした作品が、Netflixオリジナル映画(以下「本作」)として封切られました。原作の方は子供の頃に観たのですが、今回本作を観るにあたり、両方観て比較しましたので、感想を書いておきたいと思います。
まずはストーリー。本作のストーリーは、当然のことながら原作をなぞってはいますが、シチュエーションは結構変えていました。原作が東京発博多行きの東海道山陽新幹線のひかり号を舞台にしていたのに対して、本作は新青森発東京行きの東北新幹線はやぶさ号が舞台。速度が一定以下になると列車に仕掛けた爆弾が爆発する仕掛けになっていたのは一緒でしたが、原作は時速80km以下だったのが、本作は100kmに設定されていました。この辺は本筋とは関係ないものの、舞台を新青森発のはやぶさ号に設定したことが、半ば予想されたことではありましたが、物語後半で胸アツな展開になったのは鉄分が多い人なら共有できると思います。
いずれにしても、本筋に大きな違いはなく、ストーリーの面白さは優劣を付けられないものでした。
続いて配役や人物設定ですが、これは時代を反映してかなり手が加えられていました。原作で千葉真一が演じた運転手が、本作ではのんに変更されていたし、JR(原作では国鉄)の技術者の中にも、1名だけでしたが女性がキーパーソンとして登場していました。さらに、原作では全員男性だった犯人グループでしたが、本作では実行犯が女性。しかも女子高生(豊嶋花)だったのも大きな相違点。原作の主要登場人物のうち、女性だったのは、高倉健演じた主犯の奥さんとして宇津宮雅代が出て来たくらいだったのと比べると、大きく変更されていました。この結果、攻める方も守る方も原作が”男達の物語”だったのに対して、本作はそうした雰囲気が全くありませんでした。これはどちらが良いという問題ではなく、双方ともにその時点でのベストの配役であり、人物設定だったと感じられました。
また、原作で犯人グループの一人に過激派がいたのは、「時代だな~」と思ったところ。当然本作に過激派は登場しませんが、YouTuber(要潤)が出て来たのも、「時代だな~」と感じたところ。ただ、最近の映画でちょくちょく見掛けるYouTuberですが、いささか食傷気味という感も。YouTuberとか実況チャンネルなどが現代性を強調するための手段であるのは分かりますが、洋の東西を問わずあまりに擦られ過ぎていて、流石に飽きが来ました。創作者の皆様方には、YouTuberを出すにしても、もう少し新しい手法を考えて欲しいと感じたところです。
あと、双方の役者陣を見比べると、原作には健さんや千葉真一をはじめ、丹波哲郎、志村喬といったレジェンドも出ていたし、田中邦衛、北大路欣也、小林稔侍らが中堅若手として出演しており、重厚感は原作に軍配が上がる感はありました。でもそれは50年経った今現在の評価であり、今から50年後に本作がそういった重厚感を感じる作品になっていることを願って止みません。
お次は演出。ここは本作の方が俄然派手になっていました。
原作では、ひかり号が爆発するシーンが何度も映し出されたものの、これはあくまで劇中の想像のシーンであったのに対して、本作では本線上で1回、さらにはラスト近くの引き込み線で1回、合計2回に渡って一部の車両に仕掛けられた爆弾が実際に爆発しています。作品としての面白さを追求した結果なのでしょうが、流石に本線で車両が爆発したとなると、送電が止まってしまい、その時点で列車が止まってしまうので、劇中の辻褄が合わなくなってしまうように思えました。
また、前を走る列車が故障したため、その列車を避けるために爆弾を積んだ列車が一時的に反対側の線路に入るという、「新幹線大爆破」最大の見せ場は双方にありました。指令室の検討結果を運転士に伝え、この連携が成功するシーンは、原作も本作も緊迫感が伝わって来たし、成功した時の解放感も大いにありました。ただ、反対側の線路を走る列車とギリギリのところですれ違ってポイントを渡る流れは同一でしたが、原作では接触しなかった列車が、本作では接触し、先頭部分にかなりの損傷が見受けられました。時速100km余りで接触した時に、新幹線がどんな反応を示すのかは分かりませんが、これまた過剰演出だったんじゃないかと思われました。
以上、いろんな観点から原作と本作を比較して来ました。過剰演出気味に感じられた部分はあったものの、運転士をのんにするなどの配役は成功しており、物語の中とは言え、東北新幹線と東海道新幹線が繋がるかもという”永遠の夢”も、短い間でしたが観られたので、まずまずの満足感を得られる作品でした。
そんな訳で、本作の評価は★3.4とします。