「シン・新幹線大爆破」新幹線大爆破 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
シン・新幹線大爆破
日本映画屈指のパニック・アクション・エンターテイメントである1975年の『新幹線大爆破』。
あの『スピード』にも影響を与えたという名作がリメイクされる…。
このニュースを聞いてから楽しみにし、今年のNetflix映画で最も期待の一方、一抹の不安もあった。
監督は樋口真嗣、主演は草彅剛。2006年のリメイク版『日本沈没』のタッグ。
『新幹線大爆破』オリジナルとほぼ同時期でこれまた日本映画屈指のパニック・エンターテイメントであり重厚で終末感あった1974年の『日本沈没』を凡作にしてしまったタッグでもある…。
一度ならまだしも…いやいや、一度目も許せなかったから、二度目は尚更。『日本沈没』に続いて『新幹線大爆破』までも...?
期待と不安の中、遂に鑑賞。率直な感想は…
ツッコミ所は多々あるし、やはりオリジナルには及ばない。
が、思ってたより上々。
『のぼうの城』や『シン・ゴジラ』は共同監督。『シン・ウルトラマン』も庵野色が濃く。それら以外の単独監督作での手腕は今一つだったが、樋口真嗣の単独監督作としてもベストなのでは…?
何より名作であるオリジナルへの並走を見せ、よくぞ頑張った!
意外だったのはリメイクと聞いていたが、そうではなく、“続編”であった事。
オリジナルがかつてあった大事件と認知され、今回の新たな事件でも引き合いに出される。
これにはオリジナルファンとしては嬉しく、巧い作りに唸った。
さて、その“75年事案”では東京から北上したが、今回は逆。それも何だか面白い。
新青森発東京行きの東北新幹線“はやぶさ60号”。
多くの乗務員乗客を乗せて発車した矢先、統轄するJR東日本にある一本の電話。
はやぶさ60号に爆弾を仕掛けた。一定のスピードに達すると起爆装置が入り、時速100キロを下回ると爆発する…。
嘘ではない証明の爆破事件も。本当に爆弾が仕掛けられている…。
要求額は1000億円。日本国民全員に1000円出させる条件。
額は違えど、手口も事件そのものも“75年事案”と同じ。模倣犯か…?
犯人の目的は…?
犯人と対しながら事の解決に奔走するJR東日本、警察、政府。
乗り合わせた乗務員乗客の命運は…?
概要はオリジナルとほぼ同じだが、異なる点や変更点も多々。
東北南下もその一つ。東北新幹線やJR東日本など、東北人間としては聞き慣れたワードが嬉しい。福島は終盤であっという間に通り過ぎたけど…。
新幹線開通して間もないオリジナル時、タイトルが縁起でもないと当時の国鉄の協力得られなかったが、今回はJR東日本全面協力。オリジナルの高クオリティーのセットや特撮も素晴らしかったが、本物の新幹線や映像、樋口印の特撮やVFXも相まって、躍動や迫力は格段にアップ!
登場人物たちの配置も変わった。大きな変更は、オリジナルでは高倉健演じる犯人グループのリーダーが実質主人公だが、今回は草彅剛演じる車掌が主人公。JR責任者や運転士ではなく、車掌…? 乗り合わせ、直に乗客と接する立場になりより視線が我々に近くなった。
勿論JR側や運転士も奮闘。オリジナルで実質高倉健とW主演だった宇津井健が演じた指令所所長に斎藤工。意外性を突いたキャスティングなのは、千葉真一が演じた運転士にのん! ほんわかおっとりイメージさんに任せて大丈夫…? いやいや、しっかりと操縦してくれた。
オリジナルではメイン所居なかった乗客だが、今回は訳あり面々が乗り合わせる。不倫スキャンダル渦中の女性議員、お騒がせYouTuber、ヘリ墜落事故を起こして世間から責められる観光社社長、修学旅行中の学生たちと引率の先生…。
パニックや各々の立場から揉め事も起こすが、極限状況下で次第に…。
揉め事は新幹線外でも。指令所に派遣された総理補佐官の威圧的な態度。1000億円に渋る官房長官。命を天秤に架け、愚かな対応の政府関係者だったが…。
皆がパニックを起こす中、信念を貫くのは、車掌や乗務員たち、指令所所長。
お客様の命を守る。
私は常々、それを仕事だからと言うのに違和感を感じる。
仕事だから守るのか…?
違う。それが人としての在り方。そこに、仕事の責任。
草彅たちキャストはJR職員から指導。新幹線のみならず、鉄道業務に関わる全ての人たちのプロフェッショナルな働きぶりを描いたお仕事ムービーとなっているのもオリジナルとの大きな違い。
当初は衝突繰り返していたJR側、警察、政府。
JRの各部署の職員。
やがて皆が一丸となって協力し合う様は胸アツ。
序盤のニアミス回避、中盤の大胆な救出作戦、そしてクライマックスの一か八かの停止作戦…。いずれも手に汗握る。
現実だったら大惨事。でも不謹慎な言い方かもしれないが、エンタメ・ムービーである以上、脱線や爆破は見たい…。そのカタルシスもしっかり見せてくれる。
JR東日本全面協力なので圧倒的なリアリティー。
そこに、“シン・シリーズ”で培ったスピーディーな演出。専門用語飛び交い、役職名や場所名がスーパーで表示。本作も立派な“シン・シリーズ”だ。
ツッコミ所や薄っぺらさ、終盤切り離された車両に残された面々のベタさ、犯人像や動機など色々指摘されているが、一番残念なのは配信オンリーである事。本当に本当に本当に、劇場大スクリーンで観たかった…。
昨年の『シティーハンター』もだが、このGW時に公開していれば大ヒットしていたろうに…。にしても、新幹線移動が多いこのGW時にリリースとは、Netflixも攻めるね。
オリジナルでは最初から分かっていた犯人。その過程や動機もドラマの一つ。
今回は犯人は分からず。犯人探しの醍醐味も。
実を言うと、途中である登場人物を疑った。不審な言動やその人物に陰が掛かる演出もあったし…。
でも、犯人役には…。だけど、そうだったら意外性あって面白い。
そしたら、本当に犯人だった…!
ネタバレチェックを付けるので触れてしまおう。犯人は、修学旅行中の学生の一人、柚月。
まさか女子高生が犯人とは…! 彼女の父親が“75年事案”と関与していた。
犯人グループの一人。山本圭が演じた古賀。
ダイナマイトで自爆死する壮絶な最期を遂げたが、警察は面子を保つ為、事実を歪曲して射殺とした。
犯人を射殺したと虚像されたのが、柚月の父親。
が、その後父親は嘘に溺れ、過信するように。
俺が犯人を射殺した。俺が新幹線を救った。今新幹線があるのは俺のお陰だ。
その傲慢さは娘にDVという形に。
父親へ憎悪滾らす柚月。
そして至った。父親を殺す事、父親が執着した新幹線も爆破させる事。
しかし、女子高生一人で全て出来る訳ない。必ず協力者がいる。
SNSのやり取りから見つけ出す。自爆死した古賀の息子。
柚月への同情心から。本当にそれだけか…?
事件解決後、刑事が問う。ただ大人に利用されただけ。
柚月は反論。そう思う方が楽。父親や何もかも、“嘘の普通”を壊したかった。
ちょっと入り組んだ人間模様や動機、父親役のドキュメンタリー作家・森達也のド下手演技は賛否となっているが、歪んだ内面を体現した豊嶋花が印象残す。
『ちひろさん』のあの女の子だったか~! 改めて注目、ブレイク期待!
今年はJR史上最悪とされたあの脱線事故から20年。
運行トラブルも相次いだ。
一歩危うければ、事故や大惨事…。
それを防ぐ為、鉄道に関わる全ての人たちが日夜毎日頑張っている。
私も仕事(配達)で駅裏に入る事もしばしば。情報は絶えず途切れず、皆忙しく働いている。
本当に乗客を守っている。台詞通り、命を守っているのだ。
私たちが安心して乗れるのも、旅行に行けるのも、鉄道関係者の皆様のお陰。
GWスタート。私も早速電車を利用させて頂いた。これからのGW、新幹線はさらに走る走る走る。
子供が運転士になりたい夢を持つのも分かる。
改めて、鉄道に関わる全ての人たちへ、安全第一で、感謝と敬礼を。