「静かな語り口で彼女たちの選択を示す」今日の海が何色でも あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
静かな語り口で彼女たちの選択を示す
少し前に観たインド映画「私たちが光と想うすべて」を連想させる静かな語り口。「私たち」よりさらに静かでささやくようなトーンである。舞台はタイの最南部のソンクラー。シノポルトギー様式というのかパステルカラーの街並みが烟る様に美しく、人通りは少なくて眠ったような海辺の町である。とはいえ環境問題、防波堤によって浜が削られていくといったことがあり、それを巡って市長が殺害されたということが実際にあった。映画でも少し触れている。そもそも本作の英語タイトルは「Solids by the Seashore」でこれには漂着ゴミだけではなく防波堤なんかも含まれているみたい。だから女性2人のドラマ、彼女たちがどのように選択肢をとるか、が淡々と進んでいく一方で、背景に何か不穏なものも感じられるのである。終盤に2人が目撃する大火球は何なのだろう?実はソンクラー以外の世界は既に滅んでいたとかちょっと考えてしまった。
主役のシャディとフォンに話を戻すと、フォンは芸術的に影響を与えられた男(付き合ってもいた?)から完全に独立してかつ、自分に自信をもちたいねっていう話だが、シャディは親の決めた結婚を断って、多分、宗教も捨てて、フォンとの同性愛を選ぶということなのでなかなか容易ではないよね。
エンディングでも、2つの映像(予定通り婚約者と結婚するのとフォンと一緒になるのと)が提示されどっちを選択したかは明らかにはなっていない。ただ、婚約者との映像は鏡に映されたものだから、フォンに鏡を塗りつぶした作品があることと関連付けて、婚約者と一緒になる選択肢はシャディが封印する可能性が高いっていうことだろう。
この婚約者はイスラム教の導師で将来有望、礼儀正しく一見優しく見えるけど、最後の映像では堤防で魚の揚げ物(さつま揚げみたいのものか?)を一人で食べていて将来の妻に勧めたりはしない、やっぱりその程度の男だから結婚しないほうが良かったね、とは思ったけど。