「『無名の人』では、死ねなかった。」「桐島です」 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
『無名の人』では、死ねなかった。
桐島聡の本心は知る由もありませんが、
起こした事件を「申し訳なかった」との気持ちと、
自分の生きた証として、名乗って死にたかったのでは、
ないでしょうか。
映画によると1984年に働くことになる工務店に、
2024年1月に倒れて入院するまでの40年間、
職場で用意した“同じアパート“にずっと住んでいたようだ。
そのことに驚いた。
普通、職場も転々とし、全国津々浦々を転居しつつ“逃亡生活を送る“
なんて思い込みとは無縁だった。
このあまりにも“動かない事“が最高のカムフラージュになったし、
その方が効率的だったとしたら、すこぶる皮肉である。
•運転免許証を持たず、
•携帯電話を所持せず、
•健康保険証も持たないことは、入院して初めて知らされる。
◆歯磨きをするシーンが3回ある・・・穿った見方だが、
桐島は虫歯になり歯医者へ行くことを恐れて、
丹念な歯磨きで、通院を回避していたのかも知れない。
◆指名手配犯となった1975年から、1984年に工務店に勤めるまでの
9年間は空白である。
この間は居場所や仕事を転々としていた可能性がある。
■簡易宿泊所で、衣服を着て靴を履いたまま、寝ているシーンもあった。
その結果として、詮索しない工務店・・・
そこは普通の職場なら当然あるべき、
•所得の申告による納税義務も
・厚生年金(あるいは国民年金)の加入も、
・一年に一度はあるはずの健康診断も、実施しない
★臨時職員(あるいは日雇い?)の扱いを、40年間受け続ける?
★本人が希望したとしても、この工務店は少しばかり謎である。
★この会社の形態で40年間、存続したのも謎である。
だからこそ居心地よくて働き続けて、
40年間も発覚しなかったのではないのか?
余談ですが、
脚本を書いた梶原阿貴は、ベストセラー「爆弾犯の娘」の著者。
父親がリアル爆発犯として14年間逃亡した後に出頭して捕まった、
その逃亡生活を4歳から14歳の娘の視点で生き生きと描いた
ノンフィクションの著者で、
高橋伴明監督からの直々の電話で、脚本を依頼されて、
『5日間で書け‼️お前なら書ける』と、言われたそうだ。
因みに“女優になりたい“と母親に告げると、
若松孝二監督の所へ連れて行かれて女優としてスタート切った
そうである。
【くさやの干物の匂い】で隣人が通報されて警官が来たエピソードは、
梶原の実体験だそうだ。
毎熊克哉が演じる内田(桐島聡)は、大人しく人の良さげな人。
好感が持てるキャラクターである。
毎朝起きるたびに見る《爆破シーン》の夢。
大音響と華々しい猛烈な炎のシーンで目を覚ます。
桐島は、うなされるほどの悔恨にも怯えていた。
一見して柔和な内田(桐島)だが、
内実は用意周到で大胆な冒険家のようなサバイバーだったのでは
ないだろうか?
淡々とした日常は、
実は北極圏のグリーンランドを
犬ぞりを引いて横断する植村直巳みたいな
冒険家のような日々だったのではあるまいか?
(吹き荒ぶブリザードや、いつ落ちても不思議のない氷の穴のような)
そして最期の時、死を覚悟した彼は、矜持を持って、
『私は、“東アジア反日武装戦線“の桐島聡です』
・・・そう言った。
この映画は、日本国を良くしようと、「革命を志した男」
そして40年間を逃げ切った桐島聡の半生を
多分こうであろうと推測した
桐島聡の生き様そして死に様である。

