劇場公開日 2025年7月4日

「『無名の人』では、死ねなかった。」「桐島です」 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 『無名の人』では、死ねなかった。

2025年12月16日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

桐島聡の本心は知る由もありませんが、
起こした事件を「申し訳なかった」との気持ちと、
自分の生きた証として、名乗って死にたかったのでは、
ないでしょうか。

映画によると1984年に働くことになる工務店に、
2024年1月に倒れて入院するまでの40年間、
職場で用意した“同じアパート“にずっと住んでいたようだ。
そのことに驚いた。
普通、職場も転々とし、全国津々浦々を転居しつつ“逃亡生活を送る“
なんて思い込みとは無縁だった。
このあまりにも“動かない事“が最高のカムフラージュになったし、
その方が効率的だったとしたら、すこぶる皮肉である。

•運転免許証を持たず、
•携帯電話を所持せず、
•健康保険証も持たないことは、入院して初めて知らされる。

◆歯磨きをするシーンが3回ある・・・穿った見方だが、
桐島は虫歯になり歯医者へ行くことを恐れて、
丹念な歯磨きで、通院を回避していたのかも知れない。

◆指名手配犯となった1975年から、1984年に工務店に勤めるまでの
9年間は空白である。
この間は居場所や仕事を転々としていた可能性がある。
■簡易宿泊所で、衣服を着て靴を履いたまま、寝ているシーンもあった。

その結果として、詮索しない工務店・・・
そこは普通の職場なら当然あるべき、
•所得の申告による納税義務も
・厚生年金(あるいは国民年金)の加入も、
・一年に一度はあるはずの健康診断も、実施しない
★臨時職員(あるいは日雇い?)の扱いを、40年間受け続ける?
★本人が希望したとしても、この工務店は少しばかり謎である。
★この会社の形態で40年間、存続したのも謎である。
だからこそ居心地よくて働き続けて、
40年間も発覚しなかったのではないのか?

余談ですが、
脚本を書いた梶原阿貴は、ベストセラー「爆弾犯の娘」の著者。
父親がリアル爆発犯として14年間逃亡した後に出頭して捕まった、
その逃亡生活を4歳から14歳の娘の視点で生き生きと描いた
ノンフィクションの著者で、
高橋伴明監督からの直々の電話で、脚本を依頼されて、
『5日間で書け‼️お前なら書ける』と、言われたそうだ。
因みに“女優になりたい“と母親に告げると、
若松孝二監督の所へ連れて行かれて女優としてスタート切った
そうである。

【くさやの干物の匂い】で隣人が通報されて警官が来たエピソードは、
梶原の実体験だそうだ。

毎熊克哉が演じる内田(桐島聡)は、大人しく人の良さげな人。
好感が持てるキャラクターである。
毎朝起きるたびに見る《爆破シーン》の夢。
大音響と華々しい猛烈な炎のシーンで目を覚ます。
桐島は、うなされるほどの悔恨にも怯えていた。

一見して柔和な内田(桐島)だが、
内実は用意周到で大胆な冒険家のようなサバイバーだったのでは
ないだろうか?
淡々とした日常は、
実は北極圏のグリーンランドを
犬ぞりを引いて横断する植村直巳みたいな
冒険家のような日々だったのではあるまいか?
(吹き荒ぶブリザードや、いつ落ちても不思議のない氷の穴のような)

そして最期の時、死を覚悟した彼は、矜持を持って、
『私は、“東アジア反日武装戦線“の桐島聡です』
・・・そう言った。

この映画は、日本国を良くしようと、「革命を志した男」
そして40年間を逃げ切った桐島聡の半生を
多分こうであろうと推測した
桐島聡の生き様そして死に様である。

琥珀糖
満天さんのコメント
2025年12月16日

すげえレビューありがとうございます。梶原家、面白すぎますね。ナントカ版スパイ×ファミリーみたいな。今度本探してみます。

満天
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