劇場公開日 2025年9月12日

「敵役がいい味出していた」風のマジム 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 敵役がいい味出していた

2025年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

沖縄の会社で契約社員として働くまじむ(伊藤沙莉)=うちなーぐちで「真心」の意味が、南大東島産のサトウキビでラム酒製造の新規事業を立ち上げるお話でした。実際沖縄電力の社内ベンチャー制度を活用して起業された「グレイス・ラム」という会社の話をもとに書かれた原田マハ先生の原作小説の映画化だそうです。
この作品で初めて知りましたが、通常ラム酒は、砂糖を精製する際の副産物である廃糖蜜から造るそうですが、本作でまじむ達が目指したのはサトウキビの搾り汁を直接の原材料とするアグリコールラムと呼ばれる希少なラムでした。最近は酒量を減らしているため、ただでさえ飲む機会が少ないラム酒を飲む機会はさらに少なくなっていますが、本作を観た以上はこのアグリコールラムを一度飲みたくなったところです。

さて本題ですが、伊藤沙莉ファンとして注目していた作品だったものの、ストーリー展開はご都合主義な面が多々あり、その点非常に残念でした。まじむが南大東島を訪れて道を歩いているところで偶然出会ったのが商工会議所の会長である東江(肥後克広)だったり、会長に案内された食堂がこれまた偶然にも高校時代の後輩・仲里(なかち)夫婦がやっている店だったり、地元住民に対するラム酒工場建設に関する説明会を行った際、反対派が大勢を占めて会が不調になりそうになった時に宅配便でアグリコールラムが届き、それを飲んだら住民たちの雰囲気が一変するなどなど、余りにも偶然に偶然が重なり過ぎていました。
そうしたご都合主義を差し引けば、契約社員として補助業務に従事していたまじむが新規事業の社内コンテストに応募し、試行錯誤を繰り返しつつもアグリコールラム事業を立ち上げていくお話自体は中々面白いものでした。特に登場人物のキャラクター設定が明快であり、それを演じた役者もその役に徹しており、その点は大いに評価出来ると感じました。特にシシドカフカが演じたまじむの先輩である糸数啓子や、南大東島の村長など、まじむの敵役(と言っても後々味方になるけど)の雰囲気が非常に良かったです。また、まじむの同僚である知念冨美枝を演じた小野寺ずるは、「ぶぶ漬けどうどす」でもユーモラスな役柄を好演していましたが、今回も同様にいい味を出していました。
欲を言えばもう少し南大東島の風景を見せて貰いたかったものの、主題はラム酒製造なので致し方ないところでしょう。

そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。

鶏