「脚本が酷過ぎて台無しの最終作」ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0脚本が酷過ぎて台無しの最終作

2025年6月16日
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鑑賞方法:映画館

字幕版を鑑賞。トム・クルーズの「ミッション・インポッシブル」のシリーズ 30 年目、8作目にして完結編という位置付けの作品である。前後編の2部作構成になっていて、前編は2年前に公開されている。トム・クルーズが自らスタントシーンを演じていることで話題なのだが、既に 62 歳であり、豊臣秀吉が亡くなった年齢である。顔や身体にむくみのようなものが感じられたのが気になった。それをカバーするためか、前作より長髪スタイルだったが、却って違和感を強調してしまっていた。

映像的にはスリル満点で楽しめたのだが、脚本がバカ過ぎたのと、字幕誤訳家の戸田奈津子が余計なことをしてくれたせいで印象は非常に残念なものになってしまっていた。AI が人類を滅ぼそうとするという話はいかにも大きなテーマ性を感じさせるが、かなり使い古された印象があり、見せようとするなら斬新な発想や実現法が必要なはずなのだが、そもそも人類を滅ぼしてしまったら発電所の維持管理ができなくなって、やがて全世界が停電してしまうはずなので、AI にとっては自殺に等しい行為である。

AI とどう戦うかという方法も、アホらしくてマトモに相手をしていられないレベルである。ソースコードに毒を仕込むという方法で AI が倒せるという話の具体的なイメージがまず全然沸かない。ソースコードに仕込めるのはバグであって、毒というものは存在しない。ソースコードを出鱈目に書き換えても、コンパイルが通らなくなって実行形式が得られなくなるだけなので、全くの無意味である。

あの規模の AI ともなれば、ソースコードは数百万行にも上ると思われるが、その動作を自分の意図通りに改竄しようとするなら、ソースコードの全体像が頭に入っている必要があり、的確な箇所を正しく書き直さなければ実現できない。そもそもソースコードのままでは何も出来ず、実行形式に翻訳(コンパイル)して現在稼働しているものを一旦停めて置き換えなければならないはずであって、ソースコードをいじっただけでは、稼働中の実行形式には何も影響を与えられないはずなのである。

また、実行形式のプログラムを外部記憶装置に閉じ込めるという展開も訳が分からない。バックアップとして複製をコピーするなら分かるが、現在動いている実行形式のプログラムをメモリ上から排除して全て外部記憶装置に移したりしたら、動作が極度に遅くなってしまうだけで、何のメリットもない。どう考えても、この脚本を書いた人物は全くコンピュータのことが分かっていないとしか思えないのである。

それに輪をかけて酷かったのが戸田奈津子の字幕である。AI の実行形式のプログラムのことを、出演者たちの台詞では “entity” (実体、存在)と呼んでいるのに、字幕では「それ」となっているのがますます誤解を助長するだけだと思った。ハリポタのヴォルデモートの名前ではあるまいし、名前を呼んではいけない訳ではなく、名前がないので取り敢えず「実体」と呼んでいる訳であって、「それ」などと呼ぶくらいならいっそ「AI」と呼べばいいだけではないか。本当に余計なことをしてくれたものである。

こうしたプロット上の致命的な欠陥が邪魔をして、ストーリーには全く入って行けなかった。ただただアクションシーンだけを楽しもうと思ったのだが、複翼機のコックピットに近づく姿が見え見えなのに、わざと見えない振りをしているところに脱力したし、氷が浮いている北極海の中であんなことをしてしまったら、いくら減圧室に連れて行っても低体温で既に死んでいるはずである。本当に興醒めだった。

ガブリエルが何のために存在しているのかも分からなかったし、CIA の上司が何をしたかったのかも良く分からなかった。本当に出来の悪い脚本である。音楽もラロ・シフリンのオリジナル曲は普遍的にカッコいいが、アレンジ部分は緊張感がなくて弛緩しっぱなしだったのが頂けなかった。最後の方で出演者一人一人を大写しにするのは舞台演出みたいで違和感があったし、思い入れがあるのは良くわかるが、映画冒頭のトムの挨拶同様、全く不要なものだったとしか思えない。非常に残念な最終作だった。
(映像5+脚本0+役者4+音楽3+演出3)×4= 60 点

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2025年6月18日

全く賛同できません

アラ古希
宮武郁郎さんのコメント
2025年6月18日

AIに関して言えばAIが自身のオリジナルをノアなるオフラインサーバー上に残した上で、クラウド環境を全て破壊するというのは理解出来る。
電源云々もノアについての説明で納得できるモノだった。
そもそもエンティティは核戦争後に生き残り文明を再興する新しい世代の人類が自身を再起動させる未来に君臨したいと考えていたのだから、SFと考えれば話のスジは通るだろう。

宮武郁郎
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