「キートンへの先祖返りによって新たな救世主に?!」ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)
キートンへの先祖返りによって新たな救世主に?!
M:Iシリーズは、4作目の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)と5作目の『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)あたりが《面白さ》のピークで、その後ゆるやかに下降線をたどってきた——個人的にそんな印象をもっている。
というわけで、8作目となった今回も過大な期待はかけず、IMAX鑑賞に臨んだ。その感想をひとことで言うと、「トム・クルーズは、本作で果敢にバスター・キートンの無声映画への原点回帰を試みることで、自ら映画の神に仕える忠実なしもべ、もしくは映画の救世主たらんとした」とまとめることができる。
ここであえて「神/しもべ/救世主」という言葉を使ったのは、長年イーサンのチームを支えてきたルーサー(ヴィング・レイムス)の最後の独白がきっかけだ。それは、主人公のイーサン・ハントというより、まるでトム・クルーズその人に宛てた“メッセージ”のようだったからだ。そこには「運命/使命/善/未来/選択/信じること」などのワードが散りばめられ、あたかもトムを、映画という名の“宗教”に殉ずる救世主として讃えているかのように聞こえたのだ。
思い返せば、チーム全員がイーサンを信じている、いや信じるほか選択肢はない、という状況のもとで、メンバーがそれぞれの責務を果たすという話の流れだとか、ラストでグレース(ヘイリー・アトウェル)がイーサンに「エンティティ」を手渡す時、教祖でも崇めるような熱い眼差しを彼に注ぐとか、それとなく匂わせる描写があちこちにあった。なにより、還暦を迎えてなお危険なスタントに次々と挑むイーサン=トム・クルーズの存在そのものが“希望”であり、“奇跡”だとみなしても不思議ではない。
ここでもう一つ、バスター・キートンとの類似について付け加えると、シェイクスピア研究者で批評家の北村紗衣氏もそのブログで「トムの体を張ったアクションといい、(中略)話がちょっといい加減で素っ頓狂なのも含めてバスター・キートンの喜劇映画にどんどん近づいている…」と記すなど、複数の人が指摘している。
そして、これまた多くの人が指摘するところだが、この作品、ホントにお話がぐだぐだで、ガタイはいいけど脳内お花畑というか、しかめっ面で大風呂敷広げたわりにやってることは冗談みたいというか。その結果、トムの命知らずのスタントが物語の枠組みからひどく浮いてみえてしまうことにつながっている。
たしかに、トムが体を張ったアクション・シーンは、キートンのそれと同じくプリミティブな動きの魅力にあふれ、文句なしに面白い。だがその一方で、よく出来た「筋肉番付」を眺めているかのようなキモチも覚えてしまうのだ。
この「アクションが物語から浮いてみえる」のは、前作『デッドレコニング PART ONE』あたりから目立ってきた(例えば“空港の屋根でトム走り”や“バイクでスカイダイブ”など)が、今作では“ウェストミンスター橋でトム走り”から大詰めの“複葉機にぶら下がり”に至るまで、ほぼ全編そんな印象を受ける。
M:Iシリーズの魅力を支える両輪は、なんといっても「トム・クルーズ自らのアクション」と「物語の運び方の妙」だ。とくに後者については、「スパイ大作戦」の流れを汲み、「思わぬトラップやアクシデントからの臨機応変な脱出」「ラストのタッグマッチで、どんでん返しからのフォール技を鮮やかにキメてみせるところ」が醍醐味といえるだろう——そう考える身としては、本作のとっ散らかったプロット、敵役はおろか暴走AIまでも含む各キャラの雑な扱いなど、もう少しどうにかならなかったものかと残念でならない。
そのほか、最後に、思いつくままいくつか——。
1.本作はシリーズ第1作がらみのキャラが複数人登場するが、CIAアナリストのダンロー(ロルフ・サクソン)とか、1作目の黒幕だったフェルプスの息子さんだとか、正直、あまりサプライズになっていないと思った。せめてヴァネッサ・レッドグレイヴくらいの大物でないと、ね。
2.そのダンローは、『ターミネーター2』のサイバーダイン社技術者マイルズのように豪快に爆死するだろうと注視するも、そうはならず。
3.で、その問題の爆弾だが、街ひとつ丸ごと吹き飛ぶほどの破壊力を有し、めっちゃ重そうなのに、ほいほい置かれる。搬入どうしたんだろ。
4.ダンローの話に戻ると、彼が“記念の品”として長年持っていた例のナイフ。これがイーサンの手に戻り、さらにベンジー(サイモン・ペッグ)に渡って、最終的に彼の命を救うわけだが、ちょっと待てよ。アレって元々1作目の悪党クリーガー(ジャン・レノ)の所持品で、チームメンバーのサラ(クリスティン・スコット・トーマス)を殺した凶器でもあるわけで。縁起が悪すぎないか?
…その他、天敵(?)ガブリエルのマヌケな死にざま(尾翼にゴツン)とか、まだまだ言いたいことはあるけど、キリがないのでここらで打ち止め(笑)。
