「「それ」の正体」ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング レントさんの映画レビュー(感想・評価)
「それ」の正体
前作「デッドレコニング」の続編。前作でイーサンの史上最大の敵として現れたAIのエンティティ。本作ではその呼称はあまり使われず、ほぼ全編にわたり「それ」というあいまいな代名詞で呼ばれる。
製作者側もSNSが世界中に及ぼしてきた昨今の状況を作品に盛り込みたいとしてそのように脚本を修正したのではないか。
冒頭で見せられるネット上の陰謀論に翻弄されて世界が分断されてる状況はもはやAIの仕業ではなくて、その原因はすべて「それ」にあるんだと作り手は言いたいんだろう。
正直、ただ進化したAIが人類を滅ぼすために全世界の核施設を乗っとろうとするのを阻止するだけの話なら、散々ターミネーターシリーズでやられてきたネタだし、本作自体はT3と何が違うんだろうと思いながら見ていた。でもこのAIのエンティティはまさに嚙ませ犬、カモフラージュで真の敵は他にいるというのが本作のみそ。
そもそもエンティティは最初から人類を亡ぼす気があったわけではなくて、ただ人類を試そうとしていただけかもしれない。徐々に各国の核施設を乗っ取り、最後に残されたアメリカがどういう態度に出るのか。もし先制攻撃を選択すればエンティティが何をせずとも各国の防衛システムが働いて報復の核攻撃の連鎖が起きて人類は自滅するのか、あるいは賢明な判断を下すのか。もし愚かな決断を選択するのなら所詮人類はその程度だとして守る価値もないものとして見限るために。エンティティはまさに「神」として人類に「試練」を与えたのかもしれない。
本作の作りては今のネット社会でいたるところに存在する悪意ある陰謀論に翻弄される人々の姿を見ていて、それはまさにネット上に遍在するエンティティが人々を混乱に陥れていれてるように見えて本作をこのように描いたんだろう。
本当の敵はどこにいるのか。それはAIでもなく、サイバー空間にもいない。本当の敵は常に疑心暗鬼にかられる人々の心の奥にある。常に不安や不満に心が支配されていてそれを作り出した敵を探している人間たち。そんな彼らに少しそれらしい情報を与えてやればまさに火に油を注いだように燃え広がる。根源的な問題はそんな疑心にかられる人の心にあるのだと本作は言いたいんだろう。まさにそれこそが人類の最大の敵「それ」なんだと。
そして本作はひとつのアンサーを提示する。最後に残されたアメリカ大統領の賢明なる決断。彼女は国防システムのシャットダウンを命じる。けしてほかの国がなしえなかった決断を彼女はするのだ。たとえ先制攻撃の脅威にさらされようとも自らが加害者にならずに済む決断。この決断こそいま世界で当たり前のように叫ばれる自衛のためなら先制攻撃も許されるとする風潮に対するカウンターと言える。
ロシアのウクライナ侵攻も親ロシア派を守るためという自衛という大義を掲げたものだった。かつての戦争は帝国主義の下での領土獲得のためのものだったが、現代ではそれは許されず、代わりに自衛の名のもとに戦争が正当化され、ロシアどころかアメリカも9.11以降テロとの戦いという美名のもとに侵略戦争を正当化してきた。そしてこの日本でも台湾有事に備えて敵基地攻撃能力保有などと言い出す始末だ。
やられる前にやれ。常に仮想敵を作ってはそのための防衛という名のもとに国民の支持を取り付けてきた。
常に相手が信じられない、だからやられる前にやれ、そんな疑心に包まれた人間社会に対するアンサーを本作は提示した。そして本作で人類は見事にエンティティの与えた試練を乗り越えた。自分から武器を捨てるという賢明な判断を下したのだ。それはまさに人類の勝利だった。人類はAIに取って代わられるほどまだそこまで愚かではなかった。
子供の頃に見た曲芸飛行が見られるなんて、今回もトム・クルーズの体を張ったアクションが見られて感無量。そして今作ではチームにも大きな変化が。一作目から長きにわたってイーサンのために活躍したルーサーが退場する。悲しい別れ、しかし新たな仲間との出会いもあった。まさかあの人が、それは誰もが待ち望んだうれしい再会。
きっとシリーズのファンから製作者側に強い要望があったに違いない。一作目で島流しにあったあのダンローはどうした、彼は今どうしている、健在なのか、という声がきっと殺到したに違いない。私も彼の復活を待ち望んでいたファンの一人だ。きっと次の作品からルーサーに代わり彼がその役目を担うことだろう。30年待った甲斐があった。
そして本作最高の英雄は残念ながらトム・クルーズではなく、やはり賢明な決断をした大統領だろう。若き黒人女性大統領、現実の世界の大統領とは真逆なその人物像は明らかな当てつけとしてもわかりやすい。
本作は今までのシリーズとは少々違い社会風刺的な内容も込めてあり、見ごたえがあるものだった。ちなみにガブリエルの最後の死にざまも最高。
しかし、これからシリーズ続けていくうえで敵を探すのが大変だろうなあ。もう人類最大の敵AIも倒したし、舞台も高所や深海も行くところは行きつくしたし。やはり次は宇宙かな、007シリーズもゴルゴ13でさえも宇宙行ってるしねえ。ということは今度の敵は宇○人か。イーサンVSエイリアン、イーサンVSプレデターとかね。
日本に二つしかない109エキスポシティのレーザーIMAXGTにて鑑賞。このシリーズはいつもの鑑賞料金の倍はかかってでもやはりIMAXで見るのが最高でした。
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