「面白いのもわかる。面白くないのもわかる。」異端者の家 大雪八重さんの映画レビュー(感想・評価)
面白いのもわかる。面白くないのもわかる。
鑑賞した後、タイトルにある「異端者」の意味をしばらく考えていた。ヒュー・グラント演じる悪役が「宗教的な異端者」という意味ではなく、「思想的な異端者(危険思想者)」という意味だったのかと思う。原題の「HERETIC」も異端者って意味だし。
序盤は主人公二人と宗教論争をしていたり宗教的な問いかけを続けているから、この悪役も何かの派閥に属しているのかと思いきや、突き詰めると(宗教ではなく)危険思想にのめり込んでいる人物だった。
モルモン教の事は詳しくないですが、アメリカ国内でも「変わった教義を持つマイナーな分派」くらいのイメージ。つまり、彼らの論争部分の大半は理解しきれなかった。避妊インプラントを摘出するシーンも「わからんが、たぶん婚前性交渉の否定との矛盾を指摘しているんだろうな?」と思った。多分、日本人の大半が理解できない。
ただ、そういう不明な部分はあっても観客を引っ張り込む力があるのも感じた。序盤はジリジリした違和感に始まって家の奥に進む度に違和感が恐怖に増幅していく流れは非常に良かった。この手映画だと犯人の正体が暴かれると途端に萎えるものが多いが、悪役の正体を暴いた後もしっかり仕掛けを残していた点はいい感じ。
よく喋るのに本心や思想の根幹を見事に隠している悪役、「舌戦の攻防が巧み」でありながら、(最終的には負けなければならないために)ある程度弱い、といういい塩梅が出来ていたと思う。「よく考えたらあのトリックを全部独りでやって、独りで〇〇の世話とかやってるんだよな……」と思うと中々の努力家だ。あと、主役二人を閉じ込めるための仕掛けを操作するシーン、音とスピード感が合ってて好き。
良い意味でも悪い意味でも「きちんと閉じこもっている映画」だった。例えば死んだと思われていたシスターが起き上がって悪役にトドメを刺すのも、予め「復活」というキーワードが出ていて伏線になっている。
主人公二人が外の人間に助けを求めている間は家の外のシーンもあったが、二人が外を意識せずに目の前の悪役に相対するようになるとそれも無くなる、というように観客の意識の向け方が上手かった。
個人的には良し悪しありつつの良作、という感じ。ただ、ホラーシーンがちょっと少ない気もする、もっとビックリさせるカットを入れても良かったのではなかろうか。