劇場公開日 2025年4月4日

「技術の粋を尽くした古き良きハリウッド映画の現在地」HERE 時を越えて 荒川ラリーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5技術の粋を尽くした古き良きハリウッド映画の現在地

2025年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

 本国の評判を小耳に挟んでいたので若干ハードルが下がっていた部分もあるのですが、だとしても相当面白い作品だと思いましたし、おそろしくシンプルなアイデアをおそろしく手間暇をかけて作った古き良きハリウッド映画の趣きが感じられる作品でもありました。ある一視点から見る「時を越えた」家族の物語というふれこみだったので、予告を見た段階では舞台劇の要素が強い作品なのかな?と思っていました。しかし時系列のシャッフルや時代時代の風俗が微に入り細に入り作りこまれている美術は舞台劇では決してできない試みだと感じ、「画面を見る」という映画の根源的な面白さが今作は最大限発揮されていたと感じます。本作はそうした舞台劇的な制約を逆手にとって作られた、実験的だけど実はものすごくオーソドックスな映画です。
 トム・ハンクスとロビン・ライトの家族が本作品の主軸ストーリーではありますが、それに絡む横糸として、太古に暮らす先住民家族、植民地時代の白人夫婦、20世紀初頭の発明家夫婦、そして現代に暮らす黒人家族の物語といった、一つの家族の話にとどまらない「アメリカ」という地の歴史についての物語にもなっており、そうした壮大な歴史大河を堅苦しくない娯楽作品として昇華してしまうゼメキス監督の手腕はさすがといった感じです。まったく唸ってしまいました。
 「フォレストガンプ」が黒人の歴史を描かなかったことが未だに尾を引き、とかく政治的な批判を浴びてしまうゼメキス監督。今回の黒人家族の描き方に関しても色々と批判があるようですが、あくまでもハンクス&ライトの家族の物語が主軸であるということ、そして同時にアメリカという地についての物語であるということを考えると、私としては今作のそれぞれの家族と時代の描き方の比重はとてもバランスの取れた見やすいものであったと思います。万遍のない政治的正しさを目指した作品はある種の理想形だとは思いますが、一つの作品である以上、メインストーリーとサブストーリーがあります。それをすべてが平等で間違いがない形で提示しても、反対に胡散臭くなってしまうだけではないのかな?と思いました。
 …とごちゃごちゃと書き連ねてしまいましたが、劇場で鑑賞するだけの一見の価値はある作品だったと思います。私は大満足でしたのでおすすめさせていただきます。

荒川ラリー