劇場公開日 2025年2月7日

「パウル・ベーアの緻密で肝の据わった演技と勇気が圧巻」ステラ ヒトラーにユダヤ人同胞を売った女 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5パウル・ベーアの緻密で肝の据わった演技と勇気が圧巻

2025年2月7日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

列車に乗せられること、アウシュヴィッツ始めKZ行きは死を意味する、それがそんなに明らかに当時において既に知られていたことにショックを受けた。

夢があるステラはドイツから出たい、死にたくない、生きていきたい。あれだけの激しい拷問を受けたら私はどうするだろう?

ステラのジャズシンガーとして賞賛を浴びる夢、承認欲求と上昇志向、それゆえこの映画を見た観客は複雑な気持ちになる。ステラにシンパシーを持ち難いからだ。目立つ美しい金髪に青い目、ステラは何度自分の顔を鏡に映したことだろう、化粧しただろう。ステラはたまたまユダヤ人だった。自分でどうしようもないこと故に捕まり拷問を受け地獄のような恐怖を覚える。痛みと恐怖から逃れるには「同胞」を列車に送り続ける密告者になるしかなかった。

パパに点子ちゃん(Puenktchen)と呼ばれていたステラは、小さい時にエーリッヒ・ケストナーの『点子ちゃんとアントン』のお話を読み聞かせてもらったか自分で読んだのだろうか。点子ちゃんが好きだから、またはステラは点子ちゃんみたいに小柄で可愛いからパパはそんな風に呼んだのかも知れない。パパはドイツ人として戦争に出かけた、自分はドイツ人だと言っていた。ケストナーも自分はドイツ人だと主張しながら、反ナチであり反ファシストでケストナーの本は焚書の対象になった。

ナチに翻弄された人は山ほどいる。それは複雑で簡単にわかろうとしたりわかった気になることは到底できない。ステラが実在の人物であることをこの映画で初めて知った。その人物を見つけ出し映画にしたのがドイツ人監督であることの意味はとても大きい。

talisman