「ヒロインの日常に差し込み始めた新たな光を独自のタッチで紡ぐ」ブラックバード、ブラックベリー、私は私。 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
ヒロインの日常に差し込み始めた新たな光を独自のタッチで紡ぐ
ジョージアの小さな村で一人暮らしを続ける女性エテロの話である。48歳。私と同世代。年代的に感じ入るところは多い。しかしそれ以上に彼女の表情、目力、日常に自分なりの聖域を見つけ出す姿がユニークで、その動線に不思議と見入ってしまう自分がいた。冒頭、印象的に映し出されるのは、流れ落ちる水、野生のブラックベリー、ブラックバードのさえずり。実に長閑だ。このテンポで日々が描かれゆくのだろうかと感じた矢先、意表をつくショットが我々の心臓をギュッと掴む。その刹那、彼女の中の何かが変わる。生き方が少し大胆になる。他人の目を気にせず、自分に正直に行動し始める。そして忘れられないのはエテロが、物心つく前に亡くなった母の墓に寄り添うシーン。風変わりな本作がどのように帰結するのかは明かせないが、生と死という要素をナチュラルに織り交ぜながら彼女の生き様を見つめる視座が印象的だ。小さくとも個性的で忘れがたい一作である。
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