「去り行く時に残るのは、映像ではなく、体温なのかもしれません」We Live in Time この時を生きて Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
去り行く時に残るのは、映像ではなく、体温なのかもしれません
2025.6.12 字幕 MOVIX京都
2025年のフランス&アメリカ合作の映画(108分、G)
余命宣告をされた料理人の生き様を描いたヒューマンドラマ
監督はジョン・クロウリー
脚本はニック・ペイン
原題の『We Live in Time』は
直訳すると「私たちは時の中で生きている」と言う意味
物語の舞台は、イギリスのロンドン郊外
バイエルン料理のシェフ・アルムート(フローレンス・ピュー)は、ある日のこと、路上に飛び出してきたガウン姿の男を車で轢いてしまった
彼はシリアルの大手企業ウィータービックスの営業マン・トビアス(アンドリュー・ガーフィールド)で、彼は離婚間近で届出に使うペンを購入するためにホテルを飛び出していた
その後、二人は親密になって交際がスタートするものの、トビアスは交際初期の段階の会話「前のパートナーの話」から飛躍して、結婚したら子どもが欲しいかどうかと言う価値観の話をしてしまう
アルムートはトビアスの仮定の話には答えられないものの、彼は何も言えずに彼女の元を去ってしまった
映画は、この二人の10年間を追いかけると言うもので、前半7年が恋人関係、後半3年が結婚生活と言う感じになっている
それを時系列シャッフルする構成になっていて、冒頭とラストは対比になっていた
家庭菜園や森で食材を採るシーンがあり、ラストではトビアスと娘エラ(グレース・デラニー)が冒頭のアルムートと同じように卵を取ったり、それを料理したりしていく
シーンごとに妊婦だったり、闘病生活だったり、恋人時代だったりと目まぐるしくはなっているものの、トビアスが娘に対して母のことを語っていく順番のようにも感じられる
卵巣がんが発覚し、アルムートの人生観が変わって、子どもを持とうと考えるのだが、元々はシェフとして行けるところまで行きたいと言う欲求があった
再発後にも仕事は続けていて、そこで元同僚のサイモン(アダム・ジェームズ)からイギリス代表予選の話を聞き、彼女はある決意をする
それが夫婦間で共有されていないために拗れるのだが、トビアスは決して彼女の夢や人生を阻もうとは思っていない
でも、彼が言う「家族が目撃者でなければ意味がない」と言うのは大切なことで、ただ大会だけを見るよりは、日々の研鑽をも含めてエラに見せた方が良いと思う
アルムートは「弱っていく自分」をエラに残すことを拒むものの、「弱っていく中でも強く生きること」を見せるのはとても大事なことのように感じる
エラの年齢ではそこまで理解できないし、大会の凄さもわからないと思うのだが、そう言ったことは残された写真や映像などから知るので問題はないだろう
だが、その場にいたと言う空気感は残されたものを鮮明にさせる力があるので、エラがスケート場のことを思い出すとしたら、うまく滑る母ではなく、3人一緒に並んで滑った時に感じた両親の手のひらの温度なのかな、と思った
いずれにせよ、物語としての起伏も凄く、時系列シャッフルも相まって飽きさせないつくりになっていた
それぞれに喪失があって、それを埋めることになるのだが、どうしても埋められないものは残ってしまう
そんな隙間に入るのは、何気ない日常と生きたきた証だと考えると、トビアスが感じていた「結果ではなく過程を見せる」と言う感覚はアルムートをより良い人生に向かわせたと思う
そう言った部分がサラッと描かれているのが本作の特徴であり、劇的なシーン以外にも多くの場面でさりげない心が描かれていた
個人的なお気に入りシーンは「救急車で運ばれた後のジェーン(Kerry Godliman)とサンジャヤ(Nikhil Parmar)のグータッチ」で、グーを先に出したのがサンジャヤだったことだろうか
また、コミとして大会に参加したジェイド(リー・ブライトウェスト)の心意気も凄くて、それでも大会前に吐いたりするところも人間味があった
このような細部にわたって人間がたくさん出ていた映画だったので、心地よく観られたのかなと感じた
レビューを拝読して、またいろいろな笑ったり心に沁みたシーンを思い出すことができました。ありがとうございます!「結果ではなく過程を見せる」、ほんとうにそうですね