「21世紀型にアップデイトされた難病モノ 生む選択をしたワーキング•ママが見せたプロフェッショナルとしての矜持」We Live in Time この時を生きて Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
21世紀型にアップデイトされた難病モノ 生む選択をしたワーキング•ママが見せたプロフェッショナルとしての矜持
映画史を紐解けば、愛し合う若いカップルの一方(なぜか女性の場合が多いような気もします)が難病に侵され、余命いくばくもない、さて、ふたりは…… というストーリーは掃いて捨てるほどあります。そのたびにたくさんの人々が劇場内でハンカチを濡らしてきたわけですが、そうしながらも絶え間ない既視感に襲われていたというのも避けがたい事実のように思われます。
さて、この作品では主人公の凄腕シェフのアルムート(演: フローレンス•ピュー、熱演です)が卵巣癌に侵され、時間が限られたなか、夫のトビアス(演: アンドリュー•ガーフィールド)や娘のエラ、そして彼女の職業とどう向き合ってゆくかが描かれています。私は本篇を観てハンカチを取り出すまでには至らなかったのですが、なるほど、そう来たかとストーリーの巧みさに膝を打ちました。今日的な女性の生き方やそれにまつわる問題(英語で言うと problem ではなく issue のほう)をうまく見せている感じで、いわば21世紀型にアップデイトされた難病モノといった趣きがあります。
以下、若干のネタバレを含みますので鑑賞前でまっさらな気持ちで鑑賞に臨みたい方は読まれないほうがよいと思います。
まず、子供を生む、生まないの問題。アルムートは非常に多彩な人で自分のシェフとしてのキャリアにも誇りを持っており、トビアスと交際し始めた頃は子供を持つことに積極的ではありませんでした。ところが、比較的ステージの浅い癌になり、卵巣、子宮を全摘出すれば当該部分の癌の再発の可能性はほぼなくなると告げられた際の彼女の選択は、将来的に「生む」を選択する可能性を考慮して女性の機能を残しておくというものでした。その後、トビアスと話し合って彼女は生むことを選択します。で、出産後しばらくして、残してあった卵巣に癌が見つかることになります。この場合は生むという選択が致命的な結果をもたらしていますが、そうでなくても、生む、生まないの選択は人生にとって大きな課題だと思います。
次に母親としての役割とキャリアの問題。従来型のストーリーだと、母親は限られた時間のもと、少しでも長く娘と接して母親としての役割を果たそうとするでしょう。ところが、アルムートの選択は娘とともに過ごす時間を削ってでも自分のキャリアの最後に花を添えるべく、全欧州の料理の大会に英国代表として参加することでした。それはプロとしてののプライドをかけた その姿、生き様を娘に見せることでもあります。ここで面白いのは家庭内のことに関してはトビアスが仕切っているように見えることです。例えば、アルムート流の卵の上手な割り方はトビアスを通して娘に伝えられた感じでした。アルムートとトビアスの家庭内での振る舞いは従来型のジェンダーの役割りとは異なっている感じがありました。
と、ここまで書いて、なんだか理屈っぽいレビューだなと思ってしまいました。本作はアルムートのどこまでも前向きな生き方に素直に感動できるなかなかいい話なんですけどね。今回は私がちょっと感じたジェンダーのお話を書いてみたということで失礼します。
いつの時代も母は強し!なんでしょうか。子どものために明るく元気な母を務める姿勢に、観客は感動を禁じ得ないのかなと思いました。それでも幸せそうでしたけどね。
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