「物語として自走できる力」死に損なった男 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
物語として自走できる力
もし、銭湯で働く男が殺し屋で、洗い場で夜な夜な死体をばらして始末していたら、というとんでもない話の『メランコリック』(2019)で我々の前に現れた田中征爾監督の新作となると観ない訳には行きません。今回は、列車に飛び込んで死のうとプラットフォームに立っていたら、前の駅で飛び込み自殺があり、電車が止まってしまったという、これまた奇妙な偶然から話が転がり始めます。
しかし、前作「メランコリック」では、「もしこんな事があったら」の提示から一気に物語が溢れ出し現実のグロテスクさが露わになったのに対し、本作は人の手でこねくり回しながら力づくでお話を押し流している様に感じました。物語に自走できる力がありませんでした。随所に演劇的窮屈さを感じたのはコントを意識しているせいなのかな。
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