「過酷な状況下で終わりなき道を歩み続ける」未完成の映画 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
過酷な状況下で終わりなき道を歩み続ける
ドキュメンタリーと劇映画の要素を併せ持ち、なおかつ地球上の誰もが体験したパンデミックの生々しい記憶を内包した異色作。鑑賞しながら思わず自分が登場人物の一人としてあの混乱の日々ともう一度対峙しているかのような気持ちに浸った。冒頭は製作チームが昔のPCに電源を入れ、懐かしい未完成映像を映し出すというノスタルジックな場面が描かれ、心残りを取り戻すための再撮影が始まり、かと思うと雲行きが怪しくなり、急に宿泊先が封鎖され・・・。刻々と事態は急変し、その都度、映画のジャンルがガラリと形を変える。これはある意味、社会、時代、政治体制、人といった一見バラバラな要素を「未完成」というテーマのもと、一本の線へと重厚に編み上げた映画だ。未完成とは、終わりがない、ということ。しかし決して絶望ではない。その中で、歩みを止めない、あきらめない。己の目線を貫き続けるロウ・イエ監督の心の叫びが聞こえてきそうな一作である。
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