劇場公開日 2025年5月2日

「コロナ禍の記憶を蘇らせる貴重な”記録映画”」未完成の映画 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5コロナ禍の記憶を蘇らせる貴重な”記録映画”

2025年5月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

中国人監督、役者もスタッフも全員中国人、舞台も中国だけど、中国映画扱いではなく、シンガポールとドイツの合作扱いの作品でした。この時点で中国政府が国内での上映を許可しない作品なんだろうという想像が湧きましたが、果たしてどんな内容だったのでしょう?

思えば5年前に始まったコロナ禍。”震源地”とされた中国・武漢近くの都市を舞台に、映画監督や俳優、スタッフたちが、2020年1月から4月にかけてのコロナ禍序盤の混乱に巻き込まれる様子を、フェイクドキュメンタリー形式で描いた作品でした。
文字通り「未完成の映画」を完成させるために10年ぶりに再会した監督、役者、スタッフたち。直後にコロナ禍が本格化してホテルに隔離される受難が始まりますが、当時の切迫感や絶望感が半端なく伝わって来ました。特に効果的だったのは、スマートフォンで撮影した縦長映像や、廉価な機材で素人が撮影したような映像が、いやがうえにもリアリティを付与していた上、実際ネット上などに上がったと思われる当時の映像がそこここに挿入されたことでした。また、中国ほどではないにせよ、コロナ禍での混乱は全世界的な広がりを見せ、日本においもて緊急事態宣言が発出され、”ステイホーム”を余儀なくされた記憶も蘇り、登場人物たちの思いに共感できるお話になっていました。
また本作の特長として挙げたいのが、作中の俳優役ジャン・チェンを俳優のチン・ハオを務めたのは当然として、監督役のマオ・シャオルイを、実際の映画監督であるマオ・シャオルイが実名で演じたほか、撮影監督やサウンドデザイナーなどのスタッフ役を、実際の撮影監督やサウンドデザイナーが演じていた点です。さらに、「未完成の映画」というのが、ロウ・イエ監督の実在の映画「スプリング・フィーバー(2009年制作)」の続編だったという設定も実に面白い設定。だからこそ、”フェイクドキュメンタリー”でありながら、カンヌ国際映画祭のドキュメンタリー部門で上映されることになったのでしょう。

結局最後まで観た限り、直接的に中国政府を批判している訳ではありませんでしたが、天安門事件を描いた「天安門、恋人たち(2006年制作)」が中国国内で上映禁止となり、5年間国内での映画制作を禁止されたロウ・イエ監督作品ということを考えると、シンガポール・ドイツ合作となるのは致し方なかったのかも知れません。まあ作品の良し悪しには一切関係のない話ですが。

最後に。日本でも、本作の舞台となったコロナ禍序盤に横浜港に来航した”ダイヤモンドプリンセス号”を題材にした映画「フロントライン」が来月上映されるようです。同作がどのような出来栄えなのかはまだ分かりませんが、世界的にコロナ禍が収まった現在、当時の混乱を振り返る作品が創られることは意義があるものと感じたところでした。

そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。

鶏