小川のほとりでのレビュー・感想・評価
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遡行から未来へ。
2024年。ホン・サンス監督。芸術デザイン系の女子大学で働く女性講師は、学生たちの演劇が行き詰ると、元俳優兼演出家の叔父を呼んでくる。叔父の大ファンだという女性教授を交え、学生たちと大人たちの特別な日々が始まる、という話。
過去に何かがあって不遇の日々を送っているという叔父の「何か」は明かされないまま物語は進む。テキスタイル作品を制作する女性講師はソウル中心の漢江を遡るように連作を制作中だが、大人たち3人がよくいくうなぎ屋の傍らを流れているのもその上流だということが最後に明かされる。学生たちの演劇の行き詰まりの原因も徐々に明らかにされていき、叔父と姪の関係も過去にさかのぼりながら明らかにされていく。川の遡行、時間の遡行。「遡行」は明らかにこの映画の主題だ。
ところが、ただ遡って終わるわけではない。演劇を終えた女子学生たちが、演出家の求めでそれぞれの将来の希望を「詩」として涙ながらに述べるとき、そこには彼女たちのこれまでを踏まえて、これからが力強く宣言されている。叔父は姉(つまり姪の母)をめぐる過去の確執に触れて興奮し姪と衝突してしまう。ところが、そこでも互いに知らなかった事実を知って素直に和解し、今後の交流を誓い合う。「遡行から未来へ」が主題なのだ。
うなぎ屋の傍らの小川を一人でさらに上流へとさかのぼり、いったん消えるものの、笑顔で再び現れるキム・ミニの姿で映画は終わる。この楽天性が映画だ、と言いたくなる。
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