「九龍城砦の雰囲気は、うまく復元できていると思えるのだが・・・」九龍ジェネリックロマンス tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
九龍城砦の雰囲気は、うまく復元できていると思えるのだが・・・
香港が舞台なのに、登場人物が日本人ばかりで、ほとんど日本語しか聞こえてこないという違和感も、「どこか懐かしさを覚えてしまう」というイメージに合致する街が九龍城砦だったのだと理解すれば、さして気にならない。
取り壊されたはずの九龍城砦と、そこに住む人々を復元してしまうというジェネリック・テラのあり得ない設定も、そういうものなのだと無理やり納得すれば、何とか受け入れることができる。
その一方で、ヒロインが、自身のアイデンティティーについて思い悩む様子や、彼女がほのかに想いを寄せる職場の先輩との恋愛模様については、一体何を描きたいのかが分からずに戸惑いを覚える。
特に、比較的早い段階で、九龍城砦が復元した原因が、先輩の強い思い入れであったといったことや、ヒロインが、先輩の昔の婚約者のジェネリック(複製)で、しかもその婚約者は既に他界しているといったことが明らかになった後でも、2人の関係性が一向に進展しないことには、どこか間延びした雰囲気を感じてしまった。
やがて、先輩が、ヒロインと付かず離れずの関係性を保とうとしていたのは、昔の婚約者が、彼との結婚を前にして自ら命を絶ったからだと分かるのだが、彼女が自殺した理由も不明だし、今の彼女(ジェネリック)が、昔の彼女(オリジナル)と「全然似ていない」と認識しているのであれば、逆に、どうして、今の彼女(ジェネリック)と結婚しないのかが不思議に思えるのである。
その、オリジナルとは「全然似ていない」ジェネリックのヒロインにしても、自分のことを、オリジナルとは異なる「絶対の自分」であると信じ込もうとしているのだが、その割には、オリジナルとジェネリックが別人格であることを認識できるような描写が少いために、今一つ、それぞれのキャラクターの違いが実感できないし、吉岡里帆だったら、それらを演じ分けることができただろうにと、少し残念に思ってしまった。
死んだ人間を蘇らせるというファンタジーとしても、製薬会社の社長一味がその謎を探ろうとするミステリーとしても、いずれも中途半端で掘り下げ不足の感が否めないが、何よりも、先輩と、彼によって作り出されたヒロインとが、相思相愛になることは目に見えていて、ラブストーリーとして予定調和であることは、残念としか言いようがない。
ジェネリック・テラの崩壊によって九龍城砦が消え去るラストからは、「過去に囚われずに前を向いて生きろ」といったメッセージが感じ取れたのだが、エンドクレジット後のオマケ映像では、ハッピーエンドの心地良さよりも「ご都合主義」の方が鼻についてしまい、何だか興醒めしてしまった。
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