「魅力たっぷりの設定が生かされてないような…」九龍ジェネリックロマンス おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
魅力たっぷりの設定が生かされてないような…
■ 作品情報
監督は池田千尋、脚本は和田清人・池田千尋の共同執筆。原作は眉月じゅんによる人気漫画。主要キャストには吉岡里帆、水上恒司、竜星涼、柳俊太郎、梅澤美波らが名を連ねる。製作国は日本。映画「九龍ジェネリックロマンス」製作委員会が手掛けた。
■ ストーリー
雑然としていながらもどこか懐かしさを感じる街、九龍城砦を舞台に物語は展開する。九龍の不動産屋で働く鯨井令子は、先輩社員の工藤発に密かな恋心を抱いていた。街を知り尽くした工藤は、しばしば令子をお気に入りの場所へ連れ出すが、二人の関係はなかなか進展しない。そんなある日、令子は偶然一枚の写真を発見する。そこに写っていたのは、工藤の婚約者らしき自分と瓜二つの女性。令子は自身の失われた記憶と、過去に自分と同じように暮らしていた女性の存在に気づく。ゆったりと流れる九龍の時間の中で、過去と現在が交錯し、令子自身のアイデンティティ、工藤との関係、そして九龍の街に隠された数々の謎が徐々に解き明かされていく。
■ 感想
原作未読、アニメ化作品未視聴ですが、大好きな吉岡里帆さんが主演とあって、かなり楽しみにしていた本作。しかも舞台は、かつて香港旅行の際に現地ガイドから「絶対に近づくな」と釘を刺された、むせかえるような熱気、混沌、そして危うさを孕んだイメージの九龍城砦。そんな魅惑の場所でミステリアスなラブストーリーが紡がれると聞き、さらに空に浮かぶ「ジェネリックテラ」という怪しげなプロジェクトの関与もあり、さまざまな要素がてんこ盛りとなっていて、これはもう傑作に違いないと期待に胸を膨らませていました。
ところが、実際に観てみると、どうにもこうにも盛り上がりに欠ける印象が拭えません。主軸となるはずのラブストーリーは、鯨井と工藤の恋焦がれる心情が今ひとつ伝わってこず、そこに滲むはずの切なさもなかなか心に響いてきません。その原因が演技にあるのか、演出にあるのかわかりませんが、全体的に上辺だけをさらっているような感覚を覚えます。
また、「ジェネリック」という設定が意図する葛藤や切なさ、作品全体に漂う独特の世界観は理解できるものの、そのプロジェクトの真相がすとんと腹落ちすることなく、感情が迷子になってしまいました。設定がうまく機能していないと感じる部分が多く、せっかくの魅惑的な要素が十分に生かされていないのが本当にもったいないです。九龍城砦そのものがもつエネルギッシュな魅力も、序盤の数シーンでしか感じられず、もっとその熱量を肌で感じたかったというのが正直なところです。
結果として、期待値が高すぎたせいもあるかもしれませんが、最後まで没入しきれないまま映画が終わってしまったという印象です。ただ、とりあえずハッピーエンドでよかったね、という安堵感は残りました。潜在的な魅力は計り知れないのですが、それを映画という限られた尺の中では発揮できなかったように感じます。機会があれば、改めてアニメ化作品のほうにも触れたいと思います。