「本人不在」遺書、公開。 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
本人不在
先ず…姑息な舞台装置で懇切丁寧な脚本だったなぁと思う。
とある女生徒が自殺する。
彼女の遺書がクラス全員に届き、その遺書を公開する事で彼女の自殺の真相を突き止めようと動く。
…ここで躓く。
冒頭10分くらいだろうか?
こいつら全員集団催眠にでもかかってんのかとイラッとする。本筋を始める為の舞台装置をまずはでっち上げなきゃ進まないと言わんばかりで…そこから先は大茶番劇が大々的に展開する。
とは言え、語られる内容には考えさせられもする。
クラスに突如現れた「序列」
誰がつけたかも分からないものを生徒達は鵜呑みにする。信憑性などまるでないものだ。
バカなんだろうか?
だけど、同じような事は現実にも起こりうる。ネットの噂なんかもその一つで、ありもしない事実に群がる人々によって、嘘が事実と誤認される。
それとは逆に、本作の椿のように、レッテルや肩書きを押し付けられ自由を奪われる側の人間もいるのだろうと思う。もしくはその仮初の評価を悪用する者も。
ただこのキャッチーな序列の設定は副菜みたいなもので…物語の核は遺書を読み上げる者達だ。
彼らを通して愚かしく醜悪で下劣な人間のダークサイドの話が嫌って程語られる。
そして、その核には死人がずっといる。というかその場に不在の人物に向かい、又は使い聞くに耐えない主張が繰り広げられる。
「大袈裟発狂選手権」の優勝者は高石さんだった。緩急に無理がなく聞いていられた。
ある生徒の発言により、遺書はそのままの文面ではなく、裏の意味を推察していくようになる。
人間の多面性とか二面性の揶揄にも思うし、邪推する精神性の提示にも思う。
もう言いたい放題である。
ネタバラシとして、本人が書いた遺書ではなく創作なんだけれども、この段階では本人執筆の体で論争が生まれる。憶測と推測の域をどうやったって出ないのに、鬼の首を取ったような勢いだ。それに加えて真実の追求が始まる。
大前提である「自死の解明」ではなく「疑念の解消」で主題とは最早掛け離れた論調である。が、本人達はそれこそが主題の解明にあたると盲信してたりする。
この暴露と解明合戦が始まったあたりから、SNSの擬似体験なんだろうなぁと思う。
限定された空間の限定された人々によって、疑心暗鬼や不信が起こり、捏造され槍玉に上げられ殺される。社会的に殺される事もあれば、仮死状態に追い込まれもするし、実際に生命を落とす事もある。
本人の事をよく知りもしないで、表面的なイメージと全員が貼り付けたレッテルや肩書きの誤差で攻撃される。それを本人に直接聞くわけでも諭すわけでもない。個人の矮小な価値観と漫然と漂う正義感を周りの人間が振り翳す。
本人の事などそっちのけだ。
良く似てるなぁと思う。
「発狂大袈裟選手権」などは、キ◯ガイの如く主張を喚く人々と被りまくる。
でまぁ、明かされた人間関係もあり、遺書を配った人物も遺書を書いた人物も特定されるわけだけども、この真犯人がまた凶悪で…。
要は自分の趣味、言い方を変えれば自分に有益な事の為に、死人を使って実験してたって事なんだろうなぉと思う。嫉妬もあったようだけど。
コイツが種を蒔いて、コイツが誘導し、仲間達の裏の顔を暴いてほくそ笑んでたようである。
…よくまぁ、こんな物語書いたなと感心する。
で、脚本がまた用意周到というか、懇切丁寧というか…慇懃無礼はいい過ぎかもしれんが。節目節目で、進むべき道を提示してくれるのだ。ド頭からずっと一方向に誘導されてるようで気持ち悪いったらありゃしない。自由度がないと言うか、全て書かれているというか…いい脚本なのかもしんないけど、面白い脚本だとは思えない。こんな内容なのに解釈の幅が極端に少ないように思うのだ。
極め付けは5週間後の合唱シーンで、クラス全員で歌を歌って、各々戯けたりしてる。
衝撃的だった。
人間不信に陥りそうなHRが無かったかのような平和なカット。…喉元過ぎれば熱さを忘れるじゃないけども、こんな無関心が蔓延してるのが現代なのかと愕然となる。この作品のどのエピソードも悪意から発信されてるようにしか思えなかった。
正直、俺は苦手な作風だけど、これが堪らなく好きだって人は必ずいると思うので⭐︎4.0
俺的な需要は全くないので⭐︎2.5ぐらいだ。
なんつうか、この作品の成り立ち自体にも強烈な皮肉を感じずにはおれない。
言うなれば、小石を大岩に見せるような事で…事の本質はさておき、よってたかって有りもしない物をくっつけて発信し誤認または盲信されるプロセスみたいな事を感じる。
肝は「本人不在」だ。
反論も修正も同意も何一つ出来ないまま断定されていく。全くお門違いな事が真実と認識されていく恐怖…そしてどんな結末が訪れたとしても終わったものに向けられる無関心。
本人以外は擦り傷さえ負わない。
本人だけが、無数の刃に貫かれ決して癒えぬ傷を負ったまま放置される。
人の悪意から生まれた作品に思う。