「アクションではあるがコメディでは断じてない。」勇敢な市民 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
アクションではあるがコメディでは断じてない。
痛快な話であればと思って来たのだけれど、イジメる側の描写が悪辣過ぎてひく。
さすがの韓国クオリティ。
アクションコメディと紹介されてはいるが、イジメの描写が残酷で、笑えるような精神状態ではなかった。
世直しではないけれど、学園を牛耳る悪童を叩きのめす覆面教師の話なのだ。
このコンセプトに韓国得意の格差社会なんてものが注入され…イジメる側には社会的な後ろ盾もあってほぼほぼ無敵な状態。対する教師は非正規教師で、正規になる為に日々の苦渋に耐えている。しかも雇用の権限までイジメの首謀者がもつ。
モンスターペアレント的な継母も、どうやら子供の信頼が欲しいみたいで言いなりっぽい。どうやらこの継母は学園の政治にも口を出せる権力のある立場の人間みたいだ。
いわゆる、韓国鉄板の市民を迫害する権力者の構図が出来あがる。
この体制の元に物語は展開していくのだけれど…もうありえないくらいの暴君ぶりなのだ。
教師も無職になるわけにはいかずで、生活を人質にされてるような状態。暴君の取巻きは太鼓持ちしかおらずで、裸の王様なんだろうなって事は窺える。
学校全体が絶対服従な事になってる。
そんな中で行われるイジメには嫌悪感しか湧いて来ないし、その描写はまぁ残酷だ。
悪魔の所業って言葉はピッタリだと思う。
実際、人でなしなキャラだし、殺して有罪になったら法律の方を疑うレベルだ。
で、それに対する女教師なんだけど…コイツの体は鋼鉄かなんかなのかと思う。武術とか格闘技の有段者ではあるのだが、すっごい華奢なのだ。
…正直、アクションの構成が良くない。
この華奢なヒーローは相手の攻撃を受けるのだ。赤い彗星も言ってた「当たらなければどうという事はない」コレでいいと思うんだけど、殴られるは蹴られるは、掴まれるはぶん投げられるは…相当なダメージのあるアクションが繰り広げられる。
分かるよ。劣勢から反撃するとこの爽快感とか、ピンチを凌ぐきんちょうとか。でもさ、最後のリングの上だけでいいと思うのだ。窮地に立たされるのは。
腕を刺されもするわけだから。
じゃないと、あまりに絵空事で…。
その対極にあるイジメのシーンがホントに強烈で、度を超えているというか、エンタメの域を超えてるというか…生き地獄なのだ。
ホント、役者含め監督などなど最高の仕事をしたと思う。悍ましかったし、恐怖だったし、憎悪を抱く程に引いたし!
もうエンタメとして茶化しちゃいけないレベル!
アクション自体は良かったのよ。
臨場感を損なわない不規則に揺れるアングルとかさ。HSで挿し込まれる表情のアップとかさ、編集もスピーディーだし…ただアクションの主旨に疑問が残る。
けど、そんな事も動ける俳優がいるからこそだ。海外の俳優はちゃんと殴るしちゃんと蹴る。闘いの臨場感が損なわれる事がなくホント敬服してしまう。
存外、社会派な面もあって、イジメの首謀者が繰り返す「面白いから」って言う理由が覆らなかっりするのは、痛烈なメッセージにもとれる。
表層だけ取り繕って反省しましたなんて事で幕を引ける訳がないだろうと。イジメる側の本質が変わる訳ないんだから、この問題自体にもっと真剣に取り組めと。そんなメッセージを感じる。
教師や生徒の描写にも辛辣な皮肉を感じる。
リングを取り囲み盛り上がる観客達が哀れでしょうがない。「傍観者もイジメる側に加担してる」って台詞があったけど、それどころの騒ぎじゃない。
こいつら何も考えてないなと思う。
…考えすぎなのかもしれないけれど。
ただ、イジメる側の首謀者の事情はほぼ語られ事はないのだけれど、この決闘が刑事事件にならなかったり、継母を蔑むように見る眼差しだったり、全く登場しない父親だったり…コイツはコイツでのっぴきならない苛立ちを抱えてんだろうなと思えたのは、コレを演じた役者の才覚だと思う。いい俳優だ。
エンタメの中に地雷を埋め込んだような作品で、いいバランスなのか、悪いバランスなのか判断がつかない。
こういう作風を見て思うのが、当事者達はどんな事を思うのだろうかって事だ。
イジメる側は自戒し反省したりするのだろうか?
イジメられる側は一時でもスッとしたり、粒子程の希望を抱いたりするのだろうか?
状況が好転する事を願ってやまない。
「面白いから」そんな理由で他人を追い詰める輩どもは、人間ではないと思う。
どんな思考回路を持ってるのか想像もつかない。
数年前、韓国で学生の頃にイジメられたと告発し、有名人が弾劾され失脚するNEWSが数件あったと思う。
あん時に「今更…」と思いはしたが、本作のような事が起こっているのであれば、当然の報いだと言わずにおれない。
そして、映画館を出て肌寒い空気の中、平穏を享受する人々をみて妙な居心地の悪さを感じてた。