「やりたいことは何となくわかるけど、ちょっと悪趣味な精神実験かなあと思った」アンデッド 愛しき者の不在 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
やりたいことは何となくわかるけど、ちょっと悪趣味な精神実験かなあと思った
2025.1.30 字幕 アップリンク京都
2024年のノルウェー&スウェーデン&ギリシャ合作の映画(98分、G)
愛する人がある出来事によって蘇り、それと対峙する家族を描いたスリラー映画
監督はテア・ビスタンダル
脚本はヨン・アイヴィデ・リンドクビスト&テア・ビスタンダル
原題は『Handtering av udode』、英題は『Handling The Undead』で、「不死の処理」という意味
物語の舞台は、ノルウェーのオスロ
ある出来事によって、愛する人が死んだ時の状態で生き返る様子を描いていく
ひとつめの家族は、息子エリアス(Dennis
Østby Ruud)を亡くした母アナ(レナーテ・エインスベ)と彼女の父マーラー(ビョーン・スンクェスト)の物語
ふたつめの家族は、パートナー・エリーザベット(オルガ・ダマーニ)を亡くした老女トーラ(ベンテ・ボシュン)の物語
みっつめの家族は、母エヴァ(バハール・パルス)を亡くした夫ダヴィッド(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と、その娘フローラ(イネサ・ダウクスタ)、息子キアン(キアン・ハンセン)の物語
それぞれが同時進行で描かれ、ある時に起きた地震後の停電のような天変地異にて、死者が復活していく様子が描かれていく
その時に墓参りをしていたマーラーは、地面の下からエリアスの声を聞き、墓を掘り返して自宅へと連れ戻していた
墓荒らしがバレて、やむなく別荘地へと向い、そこで3人で暮らし始めていく
トーラは、エリーザベットの葬儀を済ました翌朝に、彼女が部屋に戻ってきているところを発見してしまう
エヴァはその瞬間に事故で亡くなり、安置所に夫が来た後に蘇生を果たしていた
それぞれの生き返りは年代がバラバラで、老人、成人、未成年となっていたし、それを受け止める側も、老男女、成人男女、未成年男女となっていた
突然死したのはエヴァで、エリーザベットは老衰っぽいし、エリアスに関しては死因が不明だが、埋葬されてから時間がかなり経っていた
この三者三様が「生き返り」に対してどのような行動を取っていくかという物語になっていて、死の瞬間からの事件経過というものも3家族で違っているように描かれていた
エリアスの死が突然かはわからないが、死後ある程度時間が経っていた
それでも、息子の喪失が尾を引いていて、アナは突発的に死のうと行動を起こしてしまう
マーラーはずっと引きずっていて、アナの身を案じながらも、孫の喪失が親子の仲を疎遠にしていることを憂いていた
エリーザベットは物語の冒頭で葬式が行われているのだが、高齢でもあり、ある程度死を意識する年齢になっていた
それでも、トーラは彼女が戻っても喪失感を拭えないことを悟り、彼女の元に行こうと服薬自殺を図っている
エヴァの家族は、生きているのに会えないという時間が続き、それぞれがどう向き合えば良いのかに悩んでいる
蘇生を目の当たりにしたデヴィッドは希望を持っていたが、子どもたちは信じがたいという感じで、お見舞いの際に「確認」を行うことになる
フローラはそこにいるのは母ではないと悟り、キアンは殺されたウサギと共に母親を埋葬してお別れを告げているようにも見える
また、デヴィッドは2度目の妻の死を目の当たりにしているようで、深い悲しみに打ちひしがれていた
映画は、これらのケースバイケースを描きながら、自分ならどうするだろうかを問うという感じになっている
それでも、あまりにも非現実的過ぎて自分を重ねることは難しく、客観的に見ると、全てのキャラが行なっていることは気持ち悪く見えてしまう
ひとつだけ言えるのは、肉体が戻っても生き返ったとは言えないんだなあということで、生命が維持されている状態でも、意思疎通ができなければ、その認識を拒絶してしまうことになってしまう
ある意味、それを規定するのか自分の心であり、自分の中で相手が死んだと感じれば、そこに肉体があって動いていても、シャットダウンできるということだろう
そして、この心理状態で動いていたのがアナであり、彼女は息子を湖に遺棄するという行動を取っていた
この映画で何を感じ取るかは人それぞれなのだが、やはり愛する人の死に遭遇した人でないとわからない部分は多いと思う
また、アンデッドの行動はまんまゾンビ的なものになっていて、そのコンタクトをどう受け止めるのかは難しい
アンデッドが肉体を食することで生きながらえるのかはわからないが、映画内の印象だと、食することがコミュニケーションの
ようにも思えてしまう
死んだトーラを食べたエリーザベットがその後動かなくなることを考えると、ゾンビが活動するには生命力が必要で、それと精神とが融合してこそ、生物と呼べるのかなと感じた
いずれにせよ、かなり重厚な音楽が鳴り響き、スローすぎるテンポで映像が動いていくので、睡眠不足だと一気に持っていかれる映画だと思う
3家族を交互に描いていくので場面展開はあるのだが、眠気を払拭するようなシーンはほとんどなかったと思う
構成的にも、生き返るのがほぼ中盤で、冒頭のマーラーが娘の部屋に行くだけでも長いシーンになっているので、あの瞬間にリズムを捕捉できる人だけがついていけるのかな、と感じた
テーマは悪くないと思うが、かなり悪趣味な部類になると思うので、不快に思う人もいると思うし、倫理的であるようにも思えない
そう言った点も踏まえて、観る人を選ぶ映画だったのではないだろうか