「さり気なくリアリティある、秀作だと思われました。」雪子 a.k.a. komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
さり気なくリアリティある、秀作だと思われました。
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
(レビューが溜まっていたので数行で短く)
結論から言うと、今作の映画『雪子 a.k.a.』を面白く観ました。
主人公・吉村雪子(山下リオさん)は小学校の教師なのですが、恋人の堀田広大(渡辺大知さん)から結婚したら家に入って欲しいという古い価値観や、子供との朗読の時間の10分すら惜しいと生徒の母親(森幸太郎(猪股怜生さん)の母親・森律子(中村映里子さん))から抗議されたりと、日常や仕事で小さくない圧力を受けています。
不登校の生徒・坂下類(滋賀練斗さん)の家に毎週訪問しても、彼からの満足ある返答ももらえません。
教師として頑張っているつもりでも、自分の生徒からは1番の評価を受けてはいないことを生徒のアンケート調査で知ったりもします。
ただ一方で、恋人の堀田広大は優しい存在で、子供との朗読の時間の10分すら惜しいと訴える森幸太郎の母親・森律子も仕事で子供との時間を作る困難さを考えれば、それぞれ全面的な悪とも言えません。
不登校の生徒・坂下類についても、不登校の原因も解決策も、そんなに簡単に分かる訳ではないことが次第に明らかになります。
(不登校の生徒・坂下類の父・坂下俊介(池田良さん)が、息子を部屋から出すためにあらゆる事をして来たとの告白も、感銘を受ける場面だったと思われます。)
このだからこそ主人公・吉村雪子の真綿でじりじりと締めあげられる日常と仕事での圧迫感は、さり気なくも出口のないリアリティがあったと思われます。
その描き方は、少しでも作為を感じさせればすぐにでもリアリティが壊れてしまう表現のやり方で、それなのに全てに制作者の意図が絡む映画表現で、作為を感じさせないままリアリティを保ったままで最後まで描き切った監督の力量に、正直、今作を観ながら僭越舌を巻いていました。
主人公・吉村雪子は、真綿で占められる日常の中で、唯一ラップすることが心の解放の時間なのですが、実はラップすることで全面的に解決しない所にも、この映画にリアリティがあったと思われました。
主人公・吉村雪子は、恋人・堀田広大との関係を解消し、不登校の生徒・坂下類が部屋から出て心を開くことにも成功します。
ラップバトルにも出場します。
しかしながら異性との関係性の根本が解決された訳ではないですし、不登校の生徒・坂下類も外に踏み出し始めたところです。
ラップバトルもあっさりと敗退します。
つまりこの映画では、劇的な問題の解決は最後まで行ってもされないのです。
しかしながらこの映画は、劇的な解決がされない所にもリアリティの良さがあったと思われました。
1観客としてはてっきり、教師の経験がある人の原作か、監督自身に教師の経験があり、その経験の実感からリアリティある今作が作られていると想像して映画を観ていました。
しかしながら、脚本も担当した草場尚也 監督も、脚本の鈴木史子さんも、教師の経験がある訳でなく、原作も別にある訳でなく、純粋におそらく膨大なリサーチを含めて今作を0から作り上げたということも後に驚かされました。
草場尚也 監督の次回作も気になる、志ある優れた秀作だったと、僭越思われながら、面白く心を揺さぶられながら今作を最後まで観ました。