劇場公開日 2025年1月25日

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「私が常にトレンド」雪子 a.k.a. ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5私が常にトレンド

2025年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

「一人の人間は、分けられない存在ではなく、複数に分けられる存在である。だからこそ、たった一つの「本当の自分」、首尾一貫した、「ブレない」本来の自己などというものは存在しない」

 作家の平野啓一郎の言葉である。小学校の教師とラッパーのふたつの顔をもつ雪子から、この言葉を連想した。雪子はおそらく教師としての自分とラッパーとしての自分の両方に、本当の自分を探しているような気がした。だからおのずと苦しくなる。

 本作では、「自信」を「自分を信じること」と定義して、「他信」という他人が考えた正解を信じることを否定している。雪子の同僚の女性教師が言っているように、「時代の主流なんてどうでもよくて、今の私が常にトレンドだよっていう気持ちです」という言葉に共感を覚える。
 平野氏が言っているように、本当の自分を探さなければ、「本当の自分」が人間を隔離する檻にならない。いろいろな自分が、コミュニケーションを呼び、本作の冒頭のSDGSの標語「誰一人取り残さない」につながっていく。

 雪子は、ひきこもりのクラスの教え子の家に足しげく通う。教え子は家でピアノを弾き続け部屋から出てこない。
 教え子の父親は、夫婦であらゆる引きこもりの本を読んで正解を求めたが効果がなかった、と言う。だが、彼が雪子に言った、「先生は気の利いたことは言えないけれど、嘘はついていない」という一言が心に響いた。

 世の中に正解がないように、本当の自分もいない。けれど自分にも他人にも嘘はつかない。そう思ったら、なぜか涙がこみあげた。

ジョー