「逞しさと瑞々しさと躍動と」嬉々な生活 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
逞しさと瑞々しさと躍動と
冒頭、この映画は家族の「過去と現在」を柔らかなまなざしで提示する。母が存命で、父が不調に見舞われる前の、笑顔の花が咲きほこっていたあの頃。今ではあらゆる状況が変わり、青春真っ只中の主人公・嬉々(きき)は幼い兄弟のために自らを抑制し、必死に日々を走り続けることを余儀なくされている。この点、ケン・ローチや是枝裕和の作品が脳裏に浮かぶほどの切実さが滲む。しかしだからと言って心が苦しくなる状況にとどまることはなく、本作は独特のユーモアを片時も忘れず、人々が繋がり、支え合う姿を豊かに描き出そうとする。と同時に、本作は子供から大人への階段を昇る嬉々の人間観察でもあるのだろう。心に何らかの傷や痛みを深く抱え込んだ大人たち。彼らへの嬉々の目線が批判でも同情でもなく、真摯で真っ直ぐなものへと変わっていく過程に感動を覚える。そして不意に舞い降りるラストシーン。あの宝物と呼ぶべき一瞬が今なお心に響き続けている。
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