「私は世界の王様です。」純潔の城 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
私は世界の王様です。
東京国際映画祭の「メキシコの巨匠 アルトゥーロ・リプステイン特集」で鑑賞。
実際に起きた事件をベースに、外の世界は危険だからと自宅に家族を監禁し、子どもたちを純粋培養しようとする男の物語。ランティモスの出世作『籠の中の乙女』にも繋がるが、ランティモスのようにシュールで歪んだ世界を創造するのではなく、支配欲にかられたDV男の自己矛盾と、グルーミングされた家族の葛藤をリアルに描き出す。
とにかく父親を自己愛と劣等感をこじらせた人間と捉え、卑小な人間がマチズモにとらわれることの弊害を暴いている。リプステイン監督は『境界なき土地』でも似たモチーフを描いていて、どちらも古い時代感の中に現代に通じるテーマ性を感じさせる。この辺のことをどこまでリプステインは自覚的に描いていたのかはまだ発言等を追えていないのだが、3本観たうえで共通して感じられるのは、ひとつの作家性であるように思う。
しかし主人公一家がネズミの殺鼠剤を製造販売していて、紙袋や看板になぜか日本語で「私は世界の王様です」と書いてある。命を奪う商売で小さい世界の王様になろうとした男を皮肉っているとして、公開当時のメキシコでは馴染みのある日本語だったのかしら?
コメントする