「いい絵、いいドラえもん映画」映画ドラえもん のび太の絵世界物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
いい絵、いいドラえもん映画
映画ドラえもん44作目。
今回の題材は“絵”。
昔、『ドラビアンナイト』で“絵本入りこみぐつ”があったが、今回はニューバージョン“はいりこみライト”で絵の中の世界へ。
久し振りの主題歌『夢をかなえてドラえもん』に乗せて、ドラえもんやのび太たちが歴史的名画の中に入るOPが楽しく、センスを感じる。
のび太の絵のセンスは…、ご存知の通り。
上手く描けなくて落ち込むのび太に、かつて画家を目指していたパパはニコニコ。
そんな夏休みのある日、突然時空に穴が空いてのび太の頭に落ちてきたもの。(←後々伏線)
木の板に描かれた絵…の片割れ。
はいりこみライトでその絵の中へ。奇妙な森の中。そこで喋る赤いコウモリのようなチャイに襲われる。
パニックになっていると、別の出口に出る。そこは中世ヨーロッパのような世界。ここは…?
のび太たちがあっちに行ってる頃、あっちからこっちにやって来た者が。謎の少女。
こっちの世界にびっくりさ迷っていた所を、しずかたちに保護される。戻ってきたのび太たちとも合流。
ほんやくコンニャクを介して事情を聞くと…
名はクレア。アートリアという国の王女だと言う。城近くの森をさ迷っていた時、時空間に吸い込まれたらしく…。
今ニュースで話題。13世紀頃存在し、滅亡して歴史の闇に埋もれたアートリア公国。幻の国から幻の絵画が発見され、時価数億円とも…!
見る角度で色が変わるその絵画の秘密。“アートリアブルー”という鉱石。ダイヤモンド以上の価値があるという…! スネ夫とジャイアンは目がダイヤのように輝く。
クレアをアートリアへ。そこで宮廷画家の息子で幼馴染みのマイロと再会。
クレアとマイロは同い年だったが、クレアが時空間を漂っていた頃4年も経っていた。
父王母姫とも再会。祝いの宴が開かれ…。
ドラえもん映画初の中世ヨーロッパ時代が舞台。
異例の海外ロケハンも行われ、今尚残る風景などが本作の作品世界に大いに活かされている。
絵を描くのが好きなマイロ。この時代、便利な絵の具などはナシ。色は全部自分で作る。その工程などもリサーチしたようで目から鱗だった。
お転婆のクレア。ほんやくコンニャクや流しそうめんなど“和”の食べ物を怪訝。
嫌がらせ好きで毒舌のチャイ。
両者、スネ夫から貰った“チョコレイトウ”がメチャお気に入りに。
新たな友達も魅力的、個性的。
絵の中の世界に入るのは大冒険と言えば大冒険だが、敵やピンチなど無いような…?
いや、思わぬ所から現れた。
城内に絵画泥棒が。マイロの父が描いた絵が盗まれている。
その犯人として捕まってしまったのは、アートリアブルーを求めて二人で勝手にアートリアに来ていたスネ夫とジャイアン。
その近辺に怪しい人影が…。美術商人のパル。
ドラえもんとのび太でパルを追い、しずかとクレア/チャイでスネ夫とジャイアンの救出。
パルの隠れ家を突き止める。捕まえようとしたら、パルはタイムパトロール隊員だった…!
絵画泥棒の真犯人を捕まえる為にこの時代に潜伏。
真犯人は、道化として城内に出入りしていたソドロ。指名手配のタイムハンター。
滅びる運命の国から失われる絵画を盗んで何が悪い? 寧ろ、絵を助けてやっている。
言ってる事も分からなくもないが、でも根本的に“盗む”と“保護する”じゃ違う。ソドロがやっている事はそもそも盗み。反論したのび太、よく言った!
その頃、間一髪、スネ夫とジャイアンを救出。が、クレアは人が変わったように処刑させようとする。と言うか、クレアがもう一人…!?
ソドロのひみつ道具による偽のクレア。
全てがバレ、追い詰められたソドロは、奪ったはいりこみライトでとんでもないものを絵の中から出してしまう。
アートリアに伝わる伝説の悪魔、イゼール。
光の波動であらゆるものを石化し、色を奪う。
さらに奪ったはいりこみライトで、世界を沈める赤き竜をも出し、合体変身。
イゼールの恐るべき力で、仲間は次々石化。遂にはドラえもんも…。
色が失われたアートリアで唯一残ったのび太とマイロは、この絶体絶命のピンチにどう立ち向かうのか…?
この所敵にインパクト無かったドラえもん映画だが、久々とも言える強敵。
ドラえもんたちも一度は絶望するほどで、歴代ドラえもん映画でもトップクラス。
その打倒に、登場したひみつ道具の数々が活躍。
今回、ひみつ道具の使われ方が巧い。
ただ便利だなぁ~、夢あるなぁ~だけじゃなく、メイン道具のはいりこみライトは勿論、ここぞの時に活躍する“かるがるつりざお”、イゼール退治の決め手となった“みずもどしふりかけ”。
伏線はひみつ道具だけじゃなく、物語にも。
パルとソドロが時空間でチェイス中に空いた穴こそ…。
個人的には『不思議の国のアリス』。これにはピンと来たね。
でも、一番のどんでん返しは…。確かに落ちてきた木の板に描かれていた。
悲しい別れ。でも暫しの間でも再会し、交流を。
娘を失った父王母姫の悲しみを癒す為に描いた絵が起こした奇跡の友情。
ラスト、出来すぎとは言え、ハッピーエンド。
物語も面白く、題材も良く、敵も脅威でハラハラドキドキあり、あいみょんの主題歌も良く、後味も優しく、温かく、終始楽しく。
見た人から絶賛されている通り、ドラえもん映画近年最上。現ドラえもんでもベスト級。
強いて言えば、鈴鹿央士の声が…。
絵が下手なのび太は絵が上手いパルに、どうしたら上手く絵を描けるのか聞く。
“いい絵”は上手い下手じゃない。自分が好きなものを気持ちを込めて描く。
同じ事を言った者がもう一人。最後、格言を残したパパ。さすが画家を目指しただけあって、批評家なんかより見る目あるぅ~。
本当にそうなのだ。のび太が気持ちを込めて描いたから。
あの絶体絶命の時、力になってくれた下手っぴドラえもん。
にしても、下手っぴドラえもん、可愛かったね~。の~び!の~び!…の声がまだ耳にほっこり。
いい絵、いいドラえもん映画だった。